(天皇退位への提言:1)特例法、違憲の疑い残る 木村草太氏 - 朝日新聞(2016年12月21日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12715542.html
http://blogs.yahoo.co.jp/ttammakko/33760189.html

皇位継承の問題は政治紛争の種になりやすい。強制的な退位や恣意(しい)的な退位を防ぐため、退位の基準や理由を明確に定める必要がある。一代限りの特例法では退位を認める基準や理由があいまいになる。あしき前例をつくれば将来、政権が気にくわない天皇を特例法で無理やり退位させるような事態も招きかねない。
憲法は「皇位皇室典範の定めるところにより継承する」と定める。憲法の中で名指しされている法律は皇室典範だけだ。皇室典範の権威を残す意図だろうが、一般法で明確な基準を定めるよう要求しているとの解釈もできる。退位の基準があいまいな特例法では違憲の疑いをぬぐえない。
特例法の違憲説は学会の通説ではないし、違憲の疑義は安保法制ほど大きくはない。だが、退位に少しでも違憲の疑いがあれば、その疑いは次の天皇の即位にも及ぶ。他の法律なら政府の慎重な運用や裁判など是正の道もあるが、皇位継承には万が一にも違憲の疑義がかかってはならない。
退位の要件を定める皇室典範の改正は可能だ。天皇は国政に関する権能を有しないため、天皇の意思に基づく退位は難しい。退位せざるを得ない状況が客観的に報告され、天皇にも確認し、皇室会議と国会を経て退位するなどの手続きが想定される。年齢制限を設ける案もあり得る。政府は要件議論を急ぐべきだ。
皇室典範では天皇に決定権がないうえ、人権条項も適用されない。そんな法形式を認めている以上、内閣や国会、国民には、天皇に過度の負担をかけず、できるだけ人権に配慮する責任がある。天皇陛下が退位をにじませたお気持ちを表明したのは、我々が責任を果たさなかった結果だ。そこまで追いつめてしまったことを反省し、陛下の問題提起に向き合うべきだ。
(聞き手・大久保貴裕)
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きむら・そうた 首都大学東京教授 80年生まれ。憲法学。東大院助手などを経て現職。