相模原事件報告 監視強化が気がかりだ - 東京新聞(2016年12月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016121302000139.html
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相模原市の障害者殺傷事件を巡り、国の有識者チームは、すべての措置入院患者の見守りを強めるべきだとの報告書を出した。見守りと監視は紙一重。病気治療の名を借りた人権制限は許されない。
容疑者は精神鑑定を受けていて、疾患があるのか、あったとしても、それが犯行に結びついたのかは未解明だ。なのに、措置入院制度の欠陥が悲劇を生んだとの見立てで議論された。禍根を残さないか気がかりだ。
退院した容疑者が医療や保健、福祉、生活面で手助けされていれば、犯行を防げた可能性がある。報告書はそんな仮説から出発し、措置入院となった患者全員の退院後を支えるべきだと提言した。
精神障害者は危ないから管理下に置くべきだという誤ったメッセージに転化しないか。もしも、テロリストのように反社会的な思想や信仰が犯行の動機だったら、提言の根拠は揺らぎかねない。
もちろん、どんな障害者や難病患者も地域で暮らすには、多方面の手厚い支えが欠かせない。大切なのは、本人の思いや気持ちがしっかりと尊重されることだ。
当たり前だが、措置が解除された患者は自由の身である。望んでもいないおせっかいを押しつけられる筋合いはないだろう。
健康管理のための見守りか、犯罪抑止のための監視か。その分かれ目となるのは、おそらく少なくとも支え手が患者の信頼を勝ち得るかどうかではないか。人としての尊厳にかかわる問題である。
昨年度に新たに措置入院となった患者は七千人余り。退院後の支援計画を立て、現場で実行するには人手とお金がかかる。その段取りにもたつき、入院期間が延びては人権を損ないかねない。
精神保健指定医の資格を不正に取った医師が、容疑者の措置決定に携わっていた。患者を適切に扱っているのか疑念が拭えない。医師の資質と能力が担保されない限り、提言は絵に描いた餅だ。
そもそも真っ先に検証されるべきだったのは、容疑者の入院から犯行に至るまでの警察の対応である。有識者チームには警察庁法務省が参加していたが、刑事司法上の課題について議論した形跡は皆無に等しい。
措置入院を求める警察官からの通報件数や実際に措置となった割合には、著しい地域差がある。精神医療に犯罪防止の責務を安易に転嫁している面はないか。医療とは切り離し、警察の反省点の洗い出しから出発するべきだ。