移民の若者過激化…なぜ 喜劇「ジハード」 17、18日に池袋公演- 東京新聞(2016年12月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016121390135601.html
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ブリュッセルで生まれ育った移民の若者がシリアに渡り、イスラム過激派の戦闘に加わる物語をユーモラスに描いた舞台「ジハード(聖戦)」の日本語訳リーディング公演が十七、十八両日、東京・池袋の東京芸術劇場で行われる。作者はブリュッセルの演出家で、モロッコ系移民二世のイスマエル・サイディさん(40)。「若者が過激化する理由は単純ではない。移民社会に起きている現実を知ってほしい」と話す。 (ブリュッセルで、小嶋麻友美
リーディング公演は、舞台装置を用いず、俳優が脚本を読みながら演じる。
「ジハード」の主人公は、ロックが好きで、恋人と結婚したいと思っている、どこにでもいそうな若者三人。イスラム教の教えとの間で悩み、疎外感を味わった末、モスク(イスラム教礼拝所)で過激思想に染まり、シリアに渡る。しかし戦地では人を殺すことをためらい、故郷ベルギーを懐かしむ。深刻なストーリーだが、喜劇に仕上げた。
主人公も演じるサイディさんは二〇一四年、旧友がシリアで銃を手にする姿をフェイスブックで見た。「なぜ彼が」と衝撃を受けた。同時に「(シリアなどに渡った若者は)帰ってこなければいい」と言い放つ反イスラムの極右政党に、怒りを感じた。
「それは解決策ではない。なぜ若者が過激化するのかを理解することだ」
脚本を書き上げ、同年十二月に初演。その後パリでテロが続き、今年三月にはブリュッセルで同時テロが発生。サイディさんが育ったブリュッセルのスカールベーク地区はモロッコ系住民が八割を占め、容疑者たちの拠点の一つだった。
サイディさんは地区の外の高校に進学し、異なる肌の色、異なる思想に出会ったことが「人生の転機になった」と振り返る。しかし大半は移民地区に残り、外の世界と隔絶されたまま。それが差別の始まりだとサイディさんは考える。劇は、誤ったイスラムの教えに夢をつぶされた若者の悲しみを描く。「移民を差別する世間だけでなく、若者を閉じ込めるイスラム社会にも責任がある」と強調する。
ベルギーやフランスなど、上演は二千回を超えた。「私は漫画を読んで日本を知った。芸術は文化の違いを乗り越える。日本の皆さんもきっと同じ場面で笑い、同じ場面で泣くでしょう」とサイディさんは話す。
公演は非政府組織(NGO)国際演劇協会日本センター(東京都渋谷区)が「紛争地域から生まれた演劇」シリーズの一環で企画。劇団「ミナモザ」の瀬戸山美咲さんが演出し、日本人俳優が演じる。十七日は午後七時(満席)、十八日は午後二時からで、サイディさんは各公演後のトークに参加する。チケットは一般千五百円、高校生以下五百円。問い合わせは同センター=電03(3478)2189。