(核リポート)封印解いた河野氏「東電は責任果たせ」 - 朝日新聞(2016年10月13日)

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事故を起こした東京電力は責任を果たせ、できないなら法的整理を――。自民党きっての脱原発派として知られ、5年前の福島第一原発事故のあと東電の法的整理論を唱えた河野太郎衆院議員が、経済産業省が検討を始めた東電に対する支援強化策に対し、フェイスブックなどで厳しい批判を続けている。昨年10月、第3次安倍改造内閣で初入閣し、事実上、脱原発の持論を封印していたが、閣僚を退任して「縛り」がなくなったのを機に、東電や原発をめぐる問題への対処法について語ってもらった。河野氏は筋を通すべきだとの「原則論」を改めて主張した。

■人件費を切れ、発電所を売れ

――福島第一原発廃炉費用が巨額になりそうです。経産省はその費用を賄おうと託送料金に上乗せする策を検討し始めました。どう評価しますか。

東京電力は今も一部上場で株が取引されていますから、事故の賠償や原状回復は自前でやるのが当然です。例えば、ある企業が事故を起こして賠償する時、国に向かって『お金がないので助けて』と言っても、『オマエ、何を言っているんだ』となりますよね。なぜ、東電だけ、そんな特別扱いをするのでしょうか」

「単純に考えたい。東電はその費用を捻出するために、人件費を切る、調達コストを下げる。それで足りないなら資産を売る。火力発電所を売ればいいじゃないですか。電力自由化時代、首都圏参入を考えて、どこかの企業が買うはず。なお足りないなら送電網を売る。それでも足りなければ、株式の減資や金融債権のカットをする。そうやって、逆立ちしても鼻血もでない、となって初めて、賠償はしっかりしないといけないので国が出て税金投入も、という話になる」

「それが筋なのに、やらないというのは、事故の後、東電を法的整理せず、変な形で株式上場を継続させてしまったからではないでしょうか。私の主張は一貫しています。原発事故を起こしたのは東電。さっき言ったような形で、自分で責任を果たせ、と。それが、できないというのなら、法的整理しかありません」

■利益は懐に、ツケは国民に?

――託送料金に廃炉費用を乗せるとなると、新電力の利用者も払うことになります。電力自由化をゆがめてしまう?
「ゆがめるどころか逆行している。原発でつくった電気を使いたくないと、新電力に契約を換えた人がたくさんいる。その人たちにも、東電の廃炉費用を出してほしいとは、いったい何事かと思います。そもそも託送料金は、決め方やその中身がよく見えないですよね。経産省は、そんな見えないところでやれば、世の中は怒らないだろうと踏んだのでしょう」

――電力会社でつくる電気事業連合会電事連)も、原発事故の除染・賠償の費用も想定より巨額になるとの試算をまとめ、超過分の国庫支援を政府に要望しているとの報道があります。

「講演で、電事連のことを指定暴力団山口組と並ぶ反社会勢力だと、皮肉を込めて言ったことがあります。電事連は財務諸表も公開しない任意団体。そうした組織の要望を、国がまともに議論するべきでしょうか。だいたい彼らは、電源別コストの計算で、原子力は事故費用を入れても『安い』とずっと言ってきた。『安い』のなら、自分たちで対応してください、と。できないのなら、『安い』という説明はうそだったんですね、と言いたい」

「これまで電力会社は、原発でもうかっていたんですよね。その利益を自分たちの懐に入れて、原発事故が起きて巨額の費用が発生したら国民・消費者に押しつける。そんな話を許してはいけません。電力会社は、これまでの原発による黒字分を返上するとでもいうのですか」

――電力業界としては、国庫から金を出させたい。

「国庫というか、消費者でしょう。財務省だって、総額がいくらか分からない中で、国庫から出せるはずがない。繰り返しになりますが、金が足らないというなら、東電は、とっとと発電所を売ればいい、送電網を売ればいいんです」

■「もんじゅ」許した罪

――ところで、政府はこのほど、核燃料サイクル政策の柱だった高速増殖原型炉「もんじゅ」について、廃炉を含む抜本的な見直しをする方針を打ち出しました。河野さんは、かねて廃止を唱えてきましたね。

「運転していないのに、炉を安定させておくためだけに年間200億円かかるなんて話は、受け入れられませんよね。それにしても、ここに来るまで時間がかかりすぎました。半世紀、1兆円をかけて、実績といえるようなものが影も形もない。『何十年後に実用化します』といった方針のウラに、官僚の『うそ』がありました。政治家も『違うだろ』と言わないといけなかった。その罪は重い」

――今回、文部科学省ではなく経産省が前面に出てきました。で、フランスが計画する高速炉「ASTRID(アストリッド)」に協力するというのですが。

経産省にしてみれば、自分のところに予算が来るのはありがたい、でも、自力ではできないから、仏との共同研究を考える、と。しかし、アストリッドはどれだけ研究が進んでいるのか、日本に何が求められるのか、などがよく分かりません。高速炉の基礎研究をやるのは構わないと私は考えています。でも、それは、数億円の予算でできる基礎研究の範囲ではないでしょうか。まさか、『もんじゅ』のように、年間200億円はかかりませんよね、と釘を刺しておきたい」

■虚構の核燃サイクルに終止符を

――その経産省は、核燃料サイクル政策を維持する方針は変えず、難航している青森県六ケ所村の再処理工場もあくまで稼働させるとしています。

経産省は、『青森問題』に手をつけるのが嫌なんですね。もし、核燃料サイクルを本当にやめるとすれば、経産相が青森に行き、もはや再処理は意味をなさなくなったので再処理しません、と言う必要があります。そのうえで、(すでに再処理工場のプールに持ち込んだ)使用済み核燃料の貯蔵をしばらくお願いします、そのための費用は、別途きちんとお支払いします、とちゃんと頭を下げないといけない。それがスタートになるはずです。しかし、経産省の担当者は大抵2年で異動するので、この間、この問題をやるフリだけをして、ずっと逃げてきました」

「壮大なフィクション(虚構)が続いています。六ケ所村で使用済み核燃料の再処理をしたら、プルトニウムが出てきます。それは従来、『もんじゅ』で燃やす、と言っていたのがダメになった、と。(プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料にして燃やす)『プルサーマル発電』があるけど、実際は誰もやりたくない。やはり、先ほど話したような形で『青森問題』に対処しないといけないのですが」

■「イカ文明」にどう伝えよう

――使用済み核燃料を再処理して出てくる高レベル放射性廃棄物ですが、まず、地下で300年程度、モニタリングすることが想定されています。

「300年前、赤穂浪士の討ち入り(1702年)があった時を思い描いてください。電力会社が、そのころに埋めたヤツの管理をし続けているということですよね。電力会社はそんなに続くんでしょうか? そうして、さらに放射能の影響が消えるまでの10万年、地下深くに閉じ込めておくというんですよね。10万年前は、昔習った旧人ネアンデルタール人の時代です。信じられない楽観主義です」

「オヤジ(河野洋平氏)が科学技術庁長官のとき、幹部でこんな議論があったそうです。最終処分場の場所は見つかっても、そこが最終処分場だと、はるか後世にどうやって伝えていこうか、と。オヤジはここが最終処分場と書いておけばいいと言ったら、日本語の文字が読める人間はその頃、いるのだろうか、と。ならば絵文字は、と言ったら、下手な絵だと、むしろそれを見て掘り返されてしまうかも、と。私はそんな話を聞いて、原子力の未来はバラ色じゃないんだ、と思いました。福島の事故の後に対談した音楽家坂本龍一さんは、ある科学者の話として、人類の次の地球の支配者は『イカ』だ、と。で、このことをイカ文明にどうやって伝えたらいいだろうか、と語っていました。『イカ』にとっても迷惑な話ですね(笑)」

■「40年廃炉」が最良の戦略

――政府のエネルギー基本計画の見直しにあたって、今度は、原発の「新増設」を盛り込むべきだ、との声も電力業界から出ています。

「安倍政権は、『原発依存度を可能な限り低減する』と言っているので、その方針にのっとって書けばいいだけです。40年で廃炉にしていけば、2050年に日本から原発はなくなります。それが最良の戦略と信じています。この4月、太陽光など再生可能エネルギーが一時、日本の電力需要の2割を超えたという情報を聞きました。瞬間的にせよ、政府の2030年度の再エネの目標値に相当する数字ですよ。もうそこまで来ている。原発は『安い』といいますが、再エネは燃料費がいりません。欧米の再エネ比率が3割、4割となったとき、日本はエネルギーコストで欧米にかなわなくなります。再エネを増やすほうが、合理性があるのははっきりしています」

――でも、原子力村は強い。

「そりゃ、利権の固まりですから」

――最近の選挙でも、脱原発を唱える議員が減っている。

「しかし、昔は私一人だけでした。そのときと比べたら、今は数十倍に増えています。最近開いた再生可能エネルギー関連の議員連盟の会合にも、たくさんの議員が来ました。今後を決めるのは、そういう議員を、『世の中』がどれだけ支持するか、だと思っています。つまり、あなたが選ぶのです」

     ◇

 河野太郎(こうの・たろう)氏 1963年、神奈川県生まれ。米ジョージタウン大卒。富士ゼロックス、日本端子を経て96年に衆院神奈川15区で初当選。2002年、生体肝ドナーとなり父・河野洋平(元衆議院議長)に肝臓を移植。09年の自民党総裁選挙で次点。15年10月、国家公安委員長行政改革担当、国家公務員制度担当、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、規制改革、防災)に(16年8月まで)。著書に「原発と日本はこうなる」、「『超日本』宣言―わが政権構想」(いずれも講談社)など。(小森敦司)