伊方原発再稼働へ 不安な見切り発車容認できない - 愛媛新聞(2016年8月12日)

http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201608126947.html
http://megalodon.jp/2016-0812-1106-01/www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201608126947.html

四国電力伊方原発3号機をきょうにも再稼働させる。東京電力福島第1原発事故から5年5カ月。収束のめどは立たず、まだなお多くの人が避難生活を強いられている。今も続く深刻な状況から目を背ける再稼働に改めて強く異議を唱える。
伊方原発から30キロ圏内の住民を対象とする避難計画では、命を守るという最低限の保証さえ得られていない。
原発がある佐田岬半島は険しい山からなる。伊方町の住民は放射性物質の漏えい前に避難を開始することになっているが、急峻(きゅうしゅん)な斜面ばかりで、手助けの必要な高齢者も多く、一刻を争う避難は困難を極める。地震や大雨を伴う複合災害の場合、道路の寸断で集落が孤立する恐れもある。
放射性物質流入を防ぐための「放射線防護施設」の整備は進められている。だが、現在、町内にある7施設のうち4施設は土砂災害警戒区域内にあり、危険性が否定できない。
南海トラフ巨大地震などの甚大な被害想定が欠けていることも看過できない。伊方町以外、5〜30キロ圏内の6市町の住民はまず屋内退避を求められているが、多数の家屋が倒壊して車中泊を余儀なくされた熊本地震の状況を鑑みれば、実効性を疑わざるを得ない。県内各自治体や大分への広域避難計画に関しては、道路や港の損壊、受け入れ自治体の混乱などで機能不全に陥ることを危惧する。
山本公一原子力防災担当相と中村時広知事はそれぞれ会見で「完璧な避難計画はない」と述べた。そうだからこそ再稼働すべきではない。計画の改善を続けるとしても「想定外」はどこかに潜んでおり、見切り発車は断じて許されない。
加えて、重大事故時の原発施設の対応を人海戦術に頼っている点にも不安が募る。
先月の訓練では、防護服を着て海水確保作業をしていた作業員2人が熱中症の症状を訴え、訓練を一時中断、やり直した。当然ながら真夏でも嵐の日でも事故は起こり得る。倒れてもやり直しはきかない。いくら巨額を投じて施設を充実させても、重大事故のさなかに、作業員がけがをせず健康であることを前提にした対策では、あまりに楽観的すぎよう。
愛媛新聞が先月行った県民世論調査では再稼働に否定的な回答が過半数を占めた。国や県、四電は背景に根強くある県民の不安を軽視してはならない。いつ終わるともしれない大規模避難を、仕方ないこととして当然のように受け止めるのでなく、より安全なエネルギー政策や、原発に依存しない経済施策を探ることが大切だ。
鹿児島県の三反園訓知事は熊本地震を受け、稼働中の九州電力川内原発の一時停止を九電に要請する方針を表明している。将来世代への責任としても、不安が拭えない再稼働は容認できない。中村知事にも再考を求めたい。