(あぶくま抄・論説)「石棺」問題 嫌な感じがする - 福島民報(2016年8月11日)

http://www.minpo.jp/news/detail/2016081133616
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東京電力福島第一原発廃炉作業に関する新たな戦略プランの中で、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が溶融燃料を建屋内に閉じ込める「石棺」に言及した問題は文言を修正し、取りあえずは決着した。ただ、政府と東電が策定した廃炉の中長期ロードマップで「取り出し」とされている廃炉方式の転換とも受け止められるような記述がなぜ、今、なされたのだろうか。疑問は消えない。
機構は「石棺に選択の余地を残した」との本紙などの報道を受け、「事実と異なる」と反論した。「石棺」の問題点についての見解を示すための記載であり「今後、明らかになる内部状況に応じて、柔軟に見直しを図ることが適切」との記述は「一般論」と釈明した。
プラン公表前、機構は県などに素案を示し、「石棺」の記述を避けるよう指摘を受けていた。にもかかわらず、公表されたプランには反映されなかった。「国語能力の甘さ」(山名元理事長)で納得できる話ではあるまい。「一般論」と強弁できるような表現の文言を300ページに及ぶ文書の中に紛れ込ませ、方針転換の既成事実化を狙ったのではないかと勘繰りたくなる。
今回、「石棺」に言及した背景として機構は反論文書で「近年、『なぜ、デブリ(溶融燃料)を取り出す必要があるのか』『石棺という方法もあるのではないか』といった質問を受けることがあった」とした。また、その後の取材には「デブリの取り出しよりも石棺方式を支持する専門家や政府関係者がいる。技術的な問題点を明確にしておくべきだと考えた」としている。廃炉方式の変更を迫る「圧力」の存在をうかがわせる。
この専門家や政府関係者が石棺方式を支持する理由は定かでない。廃炉のロードマップでは来年が溶融燃料を取り出す工法を決める時期に当たる。「技術的に難しいため、石棺という『逃げ場』を残そうとしたのでは」「取り出し後の溶融燃料の保管・処分場がないため」「多大な費用がかかるから」…。関係者の見方はさまざまだ。
廃炉作業を巡っては、先月の原子力規制委員会有識者会合で、100%凍結させるとしていた凍土遮水壁について東電が「完全閉合は考えていない」と説明した。こちらも唐突な方針転換ともとれる発言で、翌日「最終的に100%閉合を目指している」と発言が修正された。
「3・11」から5年余りがたった。計ったような2つの動きは偶然なのか。嫌な感じがする。(早川正也)