ドイツのテロ 移民難民が悪ではない - 東京新聞(2016年8月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016080802000118.html
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欧州では比較的安全だったドイツで殺傷事件が相次ぎ、移民や難民への風当たりが強まっている。ナチスの反省から学んだ寛容さや命の尊さを思い起こし、多文化共生社会を守ってほしい。
犯行があったのは、いずれもドイツ南部バイエルン州。ドイツに押し寄せた難民の玄関口ともなった。経済的に豊かな半面、保守的な土地柄だ。同州が地盤のキリスト教社会同盟は連立与党でありながら、メルケル首相の難民政策は寛容すぎると批判するなど、もともと難民への目は厳しかった。
ミュンヘンではイランとドイツの二重国籍を持っていた男(18)がファストフード店で銃を乱射、十代の若者ら九人が犠牲になった。
ビュルツブルク近郊ではアフガニスタン人の男(17)がナイフやおので列車の乗客らに重軽傷を負わせた。アンスバッハでは野外コンサート会場入り口近くでシリア人の男(27)がリュックサックに入れた爆発物で自爆、観客らを巻き込んだ。この二つの事件では、過激派組織「イスラム国」(IS)とのつながりが指摘されている。
当初支持された首相の寛容政策への批判は、強まる一方だ。
難民受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢」の幹部はミュンヘンの事件後、ツイッターで、「ドイツや欧州でのテロは、メルケル党のせいだ」と事件と難民問題とを結び付け、寛容政策を批判した。
家族から離れ、一人で欧州に来た移民や難民の若者は多い。母国とは違う文化や習慣に疎外感も強まる。なじめるよう手を差し伸べることこそ必要だ。ポピュリスト政党の扇動に乗ってはならない。
昨年だけで約百十万人もの難民を受け入れたドイツの負担は大きく、不満や不安が広がるのも、もっともだ。メルケル首相は事件後の緊急会見で、警察官の増員や軍との協力など、治安対策の強化を明らかにした。一方で、「政治的迫害や戦争から逃れた難民を保護する原則は守る」と言明した。
寛容政策は、ユダヤ人らを迫害したナチスへの反省から基本法憲法)に盛り込んだ迫害被害者保護規定に基づく。試練を乗り越え、戦後ドイツが誇るべき国是を貫いてほしい。
ナチスの歴史は、外国から来た若者たちへの教訓ともなる。人間の暗黒面に震撼(しんかん)し、命の尊さを痛感する。挫折の末に悪魔に惑わされないよう学んでほしい。それがドイツに暮らすことなのだと。