相模原事件 共生への歩み止めるな - 東京新聞(2016年8月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016080802000119.html
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相模原市の障害者殺傷事件を受け、再発防止に向けた国の動きが慌ただしい。問題なのは、障害者を蔑(さげす)み、あるいは恐れ、遠ざける社会の無知、無理解である。地域での共生こそが解決へと導く。
気になるのは、容疑者の元職員の措置入院歴が注目を浴び、退院した人をどう追跡するかが対策の焦点になっていることだ。衛星利用測位システム(GPS)の装着を唱える意見さえ出ている。
精神疾患のために自他を傷つけかねない人を、強制的に入院させる行政の制度をいう。根拠となる精神保健福祉法に、退院後の規定のないことが問題視されているのだ。近年の措置入院患者は年間約千五百人に上る。
だが、拙速な議論は厳に慎まねばならない。元職員には本当に精神疾患があったのか、仮にあったとして、犯行とどう結びついたのか、真相は未解明だからだ。
社会に不安が広がり、退院要件の厳格化や退院後の監視強化を求める風潮がにわかに強まっている。しかし、軽々な制度の見直しは、精神障害者は危ないという偏見や差別を助長する懸念がある。
そもそも元職員の措置入院に対しては疑義も出されている。
さる二月、元職員は衆院議長あてに犯行予告のような手紙を書き、施設職員や警察官の面前で障害者の殺害を表明した。その異様な言動を契機に、相模原市は緊急措置入院手続きに入ったという。
もしも、それが精神的症状ではなく、強い信念や考えの表出だったとすれば、危険思想の持ち主を隔離するために入院させたのではないかとの疑念も生じうる。
犯罪予防という保安処分の目的で精神医療を利用し、ましてや精神障害のない人を拘束するのは許されない。警察は例えば業務妨害や殺人予備といった刑法の規定に基づき、事前に対処できなかったのか。それも問われるべきだ。
もうひとつ。国は福祉施設の防犯対策の指針をつくるという。不審者の侵入をどう防ぎ、どう通報するか。非常事態に備えた効果的な仕組みを示してほしい。地域の見守りの力も欠かせない。
とはいえ、人の出入りや触れ合いが過剰に制限されては、施設が孤立しかねない。容疑者が施設職員だったことを考えても、万全の安全策を講じるのは難しい。
障害者の自立と社会参加を促すためにも、地域での暮らしへの移行が大切だ。障害への理解を深め、いのちを尊び合える地域づくりこそが最強の防御策になる。