都知事選有力3候補、原発政策についての違い - HARBOR BUSINESS Online(2016年7月30日)

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今回の都知事選(7月31日投開票)でも原発政策が争点の一つに浮上してきた。選挙戦後半になって野党統一候補鳥越俊太郎氏が「250km圏内の原発ゼロ」を主張し始めたからだ。2014年の都知事選では、脱原発を訴えた細川護煕元首相を小泉純一郎元首相が支援したが、二人の元首相の主張を鳥越氏が引き継いだことで、再び争点化されることになったのだ。

鳥越氏「250km圏内の『原発即時ゼロ』は可能」
鳥越氏は7月25日の個人演説会などで、「原発は人間の手に負えない。東京都民の命と安全を守るため、250km圏内にある原発の停止と廃炉を電力会社に申し入れる」「原発廃炉にするのが政策の一丁目一番地」と訴え、原発再稼働にも反対している。「東京には原発がないが、原発の電力を最も使うことになるのは東京都。都民の意向が国の原発政策にも大きな影響力を持つ」との考えだ。
鳥越氏の公約の柱は「非核都市宣言」。核兵器原発も「人間の手に負えないものだ」と、「ゼロを目指す」と宣言した。そして脱原発(エネルギーシフト)のために、太陽光やバイオマス発電など自然エネルギーの普及に取り組むことも公約にしている。一方、小泉氏は全国各地の講演で「福島原発事故以降の5年間でほとんど原発は動いていないのに、電力不足になったことはない。だから原発即時ゼロは可能」と繰り返し強調している。「5年間の現実を直視すべき」というわけだが、鳥越氏の演説内容もよく似ているのだ。
全国規模での「原発ゼロ」を主張する小泉氏に対して、鳥越氏は「東京から250km圏内にある東京電力福島第一、第二原発、新潟の柏崎刈羽原発、静岡の浜岡原発の5つは2011年5月に浜岡原発を停止して以来、一基も動いていない。しかし電力不足で困ったことはない。原発がなくても暮らしていける」と主張。東京250km圏内に限定している違いはあるものの「5年間の原発稼働状況から『即時ゼロ』は可能」との結論に至っている点では一致している。
また、鳥越氏は選挙演説で「安倍(晋三)首相は五輪招致演説で、汚染水問題を『アンダーコントロール』(制御下にある)とウソをついた」と批判しているが、これも小泉元首相が講演で紹介する話と同じだ。

増田氏は「再稼働が必要」、小池氏は「LED転換で原発13基に匹敵」
これに対し自公などが推薦する元岩手県知事の増田寛也氏は、「今は再稼働が必要」という立場だ。
「国として全力を挙げて原発依存度を低減していく必要がある」と語る一方、「安全性が確認された原発の稼働は今は認めていくべきだ」と再稼働容認の立場も強調している。
増田氏の主張は「原発依存は低減しながら再稼働は進める」という安倍政権の原発政策と重なり合う。また2014年6月から出馬直前まで東京電力社外取締役を務めたことについては、「“原子力ムラ”の一員ではないか」といった批判に答えるべく、「第三者の視点から東電改革を進めるため、被災地の首長経験者として就任した」と説明している。
環境相小池百合子氏は、再生エネの活用や省エネを進めるエコハウス・スマートハウスへの補助強化や、省エネ効果のあるLEDの導入促進を選挙公約に盛り込んでいる。そして、LEDへの転換で原発13基に匹敵するとの試算も引用しながら都民の協力を求めると訴えてもいる。
ただし、原発については「安全性の確保が第一」と記者会見で述べ、小泉氏や鳥越氏のように原発再稼働の必要性自体を否定するところまでには踏み込んでいない。「トモダチ作戦被害者支援基金」に関する記者会見で小泉元首相と細川元首相は、小池氏について「度胸がある」「政治的センスがある」と評価はしたが、原発即時ゼロ政策では一致していたわけではないのだ。

取材・文・写真/横田一(ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた最新刊『黙って寝てはいられない』<小泉純一郎/談、吉原毅/編>に編集協力)