(いま読む日本国憲法)<参院選編>(下)平和主義「軍」明記か9条堅持か - 東京新聞(2016年7月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2016070702000212.html
http://megalodon.jp/2016-0707-1009-34/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2016070702000212.html


在任中の改憲に意欲を示す安倍晋三首相(自民党総裁)の最大の目的は、憲法九条を変えることだ。にもかかわらず、自民党参院選公約で九条改憲に触れず、首相も遊説では取り上げないため、日本の平和主義を巡る議論は素通りされている。
自民党の考え方は、野党だった二〇一二年にまとめた改憲草案で分かる。戦争放棄をうたった九条一項から「永久に」の文言を削除し、二項で「自衛権の発動を妨げない」と規定。自衛権には他国を武力で守る集団的自衛権が含まれ「憲法上の制約はなくなる」(党作成のQ&A)という。
安倍政権は、歴代政権の憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を容認した。ただし、他国への攻撃で日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合に限ると説明している。これに対し、自民草案は集団的自衛権を全面解禁する内容だ。
もう一つの特徴は「国防軍」の創設だ。戦力不保持を定め、交戦権を否認した現在の規定は削除している。そもそも自衛隊は日本自身が攻撃対象になった場合にだけ、武力行使を許される極めて抑制的な実力組織だった。国防軍になれば、米欧の多国籍軍と一緒に特定の国や勢力を武力制裁することもできる。
首相は公示前のテレビ討論会で「自民党改憲草案を憲法審査会で議論していただきたい」と各党首に求めた。同時に「政治の現実としては草案通りにはならない」とも述べた。
改憲勢力の中で、九条に関する姿勢が自民に最も近いのは日本のこころを大切にする党だ。六月に発表した「自主憲法草案」の概要には、自民草案と同様に自衛権を明記した。
一方、公明党は九条改憲は「必要ない」と党見解で示している。これまでは九条に自衛権保有を書き加える「加憲」を検討してきたが、集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法の成立を受け、姿勢を改めた。おおさか維新の会は「自民草案には反対」しているが、議論には応じると含みを持たせる。
これに対し、民進、共産、社民、生活の野党四党は「安倍政権による九条改憲を阻止する」方針で一致している。民進党は「平和主義を脅かす九条改憲に反対する」と公約。自民草案のように集団的自衛権の行使を制約なく認めることは「許されない」とした。共産、社民両党は九条堅持の立場を引き続き打ち出す。 (金杉貴雄)