参院選 原発エネルギー政策 残すか、なくすかの選択を - 朝日新聞(2016年7月6日)

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猛暑が見込まれるこの夏、政府は2011年春の東京電力福島第一原発の事故後に続けてきた夏の節電要請を見送る。
いま動いている原発は、全国で九州電力川内原発の2基だけだ。それでも電力供給に余裕があると判断したのは、消費電力が少ないLED(発光ダイオード)の活用を含め、原発事故後の5年で企業や家庭での節電が定着してきたことが大きい。
現状は事故前と比べて「脱原発」が進んだようにも見える。原発の是非が問われる機会は少なくなり、反対デモの参加者も減った。今回の参院選でも、原発政策をめぐる与野党の論戦は活発とは言い難い。
改めて思い起こしたいのは、政府の原発政策が「維持」と「廃止」のどちらを向いて進んでいるのか、ということだ。
朝日新聞社は社説で、20〜30年後を見すえた「原発ゼロ社会」を提言してきた。当面どうしても必要な原発の再稼働は認めつつ、危険度の高い原発や古い原発から閉めていくという考え方である。

■「なし崩し」狙う政権
安倍政権の方針は、12年末に発足してからの軌跡を見ても、はっきりしている。
最初こそ「原発依存度の低減」に力点を置いていたが、半年もたたないうちに原子力規制委員会を前面に押し立て「安全が確認できた原発は再稼働させる」との方針に転じた。
14年に決めたエネルギー基本計画では、原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけた。翌15年には、30年度時点で電源に占める原発の割合が20〜22%になるよう政策を講じると決めた。事故前に54基あった原発を30基余り残さないと達成できない水準である。
実際、昨夏の川内を皮切りに、なし崩し的に原発の再稼働手続きが進んでいる。これまで4基が運転を再開し、今月には四国電力伊方原発3号機も再稼働する見通しだ。他に約20基が審査を受けている。
さらに規制委は運転開始から40年以上になる関西電力高浜原発1、2号機の延長も認めた。過酷事故を防ぐために古い原発を閉じていく「40年ルール」すら骨抜きになりつつある。
安倍首相は原発を「低廉で安定的なエネルギー」と強調する。だが、電力自由化地域独占が崩れ、電気料金への規制もなくなっていけば、安全対策や廃炉などに巨額の費用がかさむ原発は、むしろ事業者のお荷物になりかねない。
このため、政府内では新手の原発保護策とも言うべき案が見え隠れしている。経済産業省は、原発でつくった電気を一定の価格で買い取ることによって原発への継続的な投資を促す策を温める。他にも、事故時の賠償制度について事業者の負担を減らし国の責任を増やすという、自由化と逆行しかねない検討が進んでいる。

与野党は賛否を語れ
与党では、原発政策を政府任せにして沈黙を守る候補が目立つ。その裏で、老朽原発の運転延長への反発を逆手にとって「ならば、より安全な新型原発の新増設を認めるべきだ」との声も広がり始めている。参院選で与党が勝利すれば原発回帰策に弾みがつくのは必至だ。
一方の野党は、一部をのぞきおおむね「脱原発」で一致する。民進党など4党の共通政策も「原発に依存しない社会の実現」をうたった。
ただ、原発を減らしていく手法やスピードには各党ごとに温度差がある。アベノミクスや安全保障関連法、憲法改正問題を積極的に取り上げる一方で、原発問題は後景に退きがちだ。
日本は原発をずっと続けていくのか。それとも代替エネルギーの開発へ軸足を移し、原発ゼロを目指すのか。今後のエネルギー政策の根幹となる大きな道筋の違いだけに、それを掘り起こし、有権者にわかりやすいよう工夫しつつ論戦を重ねることは与野党の責任である。
福島県原発被災地では避難解除への動きが本格化しつつあるが、生活の再建や将来設計はまだまだこれからだ。事故ですべてを失った住民にとって、原発はいまも日々向き合わざるをえない切実な問題である。

■将来を見すえて
一方、事故の直接の影響を受けなかった地域の有権者にとって、5年は関心が薄れるのに十分な月日かもしれない。
だが、電気は毎日の生活や仕事に欠かせないインフラだ。その電源をどんな負担でどうまかなっていくべきかは、身近かつ大きな政治課題と言える。
この4月から家庭でも電気の購入先を選べるようになり、自分の意思を示す機会が増えた。それでも、選挙で投じる一票は重い。今回の参院選の帰結は、安倍政権の原発政策への後押しにもブレーキにもなりうる。
きょうあすだけでなく、10年後、20年後を見すえて、エネルギー問題、とりわけ原発の是非に思いを巡らせたい。