安保・野党案 与党はなぜ逃げるのか - 朝日新聞(2016年4月4日)

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自民、公明の与党は、旧民主党など野党5党が2月に共同提出した安全保障法制の廃止法案を審議しない方針を決めた。
旧民主党と旧維新の党が対案として提出した、領域警備法案など3法案の審議にも応じようとしない。
安倍首相は自身の言葉を思い出すべきだ。1月の衆院代表質問で、民主党(現・民進党)の岡田克也代表が法制を「違憲」と指摘したのに対し、「全体像を一括して示してほしい」と対案提出を促したはずである。
なのにいざ野党案が出てくると、一転して無視する。政権与党の姿勢として、ご都合主義が過ぎないか。
昨年9月、世論の強い反対と不安を押し切って強行成立させたあと、首相は「これから粘り強く説明を行っていきたい」と語った。
せっかく野党案が提出されたのだから、与党の論客が質問に立ち、野党を相手に堂々と議論を交わしてはどうか。それこそ首相の約束を果たす絶好のチャンスではないか。
安倍政権は、野党が憲法53条に基づいて要求した、昨秋の臨時国会の召集も拒否した。
政権が、国民に粘り強く説明する努力をしてきた、とは言いがたい。法成立から半年以上が経っても、世論はなお割れたままである。
確かに、野党の法案や要求を拒む数の力は、与党が選挙の結果、手にしたものだ。一般に、野党の法案は与党の反対で審議に入れない例も多い。
だとしても、国会は数さえあれば少数派の声を切り捨てていい、というものではない。ましてや戦後の安保政策の根幹にかかわる重要法案である。
異論にも耳を傾け、議論を通じて国民に理解を広げていく。そんな民主主義のプロセスに対する敬意を、安倍政権は欠いていないか。
法制は先月末に施行されたが、平時の米艦防護、国連平和維持活動(PKO)に派遣する自衛隊の「駆けつけ警護」など新たな任務の付与は、夏の参院選後に先送りされる。
ならばどうして、あれほど成立を急ぐ必要があったのか。いまなぜ野党案の審議に背を向けるのか。
今月下旬に衆院補欠選挙があり、夏の参院選衆院と同日とする可能性も指摘されている。
選挙までは法制への反対や不安をできるだけ忘れてもらう。それが狙いではないのか。
今からでも遅くはない。
「言論の府」の名に恥じぬ、逃げない議論を与党に求める。