長時間労働 残業の上限規制は必要 - 東京新聞(2016年3月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016033102000147.html
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残業代ゼロ法案」提出の政府が、残業規制の見直しを言い出した。確かに日本の労働時間は欧州などより長い。過労死を防ぎ仕事と家庭の両立を容易にするならいい。具体像をまず示してほしい。
安倍晋三首相は、政府の一億総活躍国民会議で「(残業時間の上限を労使で定める)三六協定における時間外労働規制のあり方について再検討を行う」と表明した。
労働基準法は労働時間を一日八時間、週四十時間までと定めている。
しかし、労使が三六協定を結べば法定時間を超えて残業でき、“青天井”ともなる。三六協定を結ぶ事業場は全体の五割を超える。
日本人の労働時間は長い。国際労働機関(ILO)によると、週当たりの労働時間が四十九時間以上の長時間労働者の割合は二〇一三年で、日本は21%超。フランスやドイツの、ほぼ倍だ。
厚生労働省によると、一四年度に脳・心臓疾患で過労死したと認定されたのは百二十一人と高止まりし、精神障害による過労自殺は未遂も含めて九十九人と、過去最多を更新している。
フランスやドイツの労働時間が短いのは、総労働時間の上限規制を設けているからだ。加えて、勤務終了から開始まで連続十一時間以上の休息を取らなければいけないという「インターバル規制」も定めている。
一億総活躍国民会議のメンバーからは「三六協定の上限規制の設定など、長時間労働規制を前に進めてほしい」と欧州と同様の規制を設けるよう求める声も出た。
日本労働弁護団は、フランスを参考に、総労働時間の上限を週四十八時間、時間外労働の上限を年二百二十時間と、罰則付きで法律で定めることを提言する。
経済界の反発も予想されるが、総労働時間の上限規制を日本も導入するべきではないか。労働時間の抑制は、働き手の命や健康を守るのみならず、女性の活躍支援や少子化対策としても有効な施策であることは間違いない。
理解に苦しむのが、政府は長時間労働の抑制に旗を振る一方、働いた時間に関係なく成果に応じて賃金を支払う残業代ゼロ法案の成立を目指していることだ。同制度は過重労働を助長させ、過労死を増やすとの懸念が強い。
政府は年収千七十五万円以上の高度専門職に限定するため対象は「極めて狭い」と言うが、将来、拡大されない保証はない。働く側の声をよく聞いてもらいたい。