「停波」発言 放送局の姿勢を見たい - 朝日新聞(2016年3月7日)

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政治的に公平でない番組を繰り返し流した場合、時の総務大臣の判断で、放送局に電波停止を命じることもありうる――。
高市早苗総務相が、こう繰り返し表明している。これまでの総務大臣も同様のことを述べてきた、とも言っている。放送関係者や法学者らによる批判声明が相次いでいるが、考えを変えるつもりはないという。
高市氏は放送法の意義を理解していない。放送法の精神は、憲法が保障する表現の自由を確保することにある。
様々に解釈できる「政治的公平」を定めた第4条を、停波という処分と結びつけるべきではない。番組が政治的に公平か否か、自身も政治家である大臣が判断することには矛盾がある。
いまの自民党は、番組内容にまで踏み込み、威圧ともとれる「要望」や「事情聴取」などでテレビへの干渉を強めている。そんな政権党の大臣が「停波」を口にすることは、放送の自由への圧力と受け止められる。
心配なのは、テレビ報道に萎縮が広がることだ。
「上から無言のプレッシャーがある」「自主規制や忖度(そんたく)によって萎縮が蔓延(まんえん)している」。現場にはそんな声があるという。政権から「公平ではない」と言われるのを恐れて報道が手ぬるくなれば、民主主義社会の基本である国民の知る権利の足元が掘り崩される。
実際は萎縮していないとしても、視聴者が「政権の意に沿った放送だろう」と疑えば、テレビ報道は信頼を失う。高市氏の発言は結果として、こうした疑念を膨らませている。社会にとって大きな損失である。
在京キー局のトップはみな、記者会見で高市氏の発言について問われ、「放送は自主自律」と答えている。その覚悟を具体的に示してほしい。
すでに、この問題を掘り下げて、視聴者に考える材料を提供しながら、自らの姿勢を示した報道番組もある。だが、そうした動きは一部にとどまり、広がりが見えない。
春の番組改編で、政権に厳しくものを言ってきたキャスターが次々と交代することもあり、視聴者は今後の報道姿勢を注目している。テレビ局は報道の担い手として、自分たちの考え方を、もっと積極的に直接視聴者に伝えたらどうだろうか。
放送法第1条には「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにする」とある。それをどう実践しているのか、分かりやすく見せてほしい。