ドイツ難民犯罪 試される人道と理性 - 東京新聞(2016年1月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016011302000115.html
http://megalodon.jp/2016-0113-0924-02/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016011302000128.html

ドイツ西部ケルンで女性らが暴行された事件の容疑者に、難民申請者二十二人がいたことが明らかになった。言語道断で捜査や処罰は必要だが、難民差別につながらぬよう冷静さを保ちたい。
事件が起きたのは昨年十二月三十一日、大みそかの晩。目の前にケルン大聖堂を仰ぐ中央駅前の広場で、約千人の男らが暴れ、複数のグループに分かれて女性らに暴行、金品を奪った。
年が明けても被害届が相次ぎ、実行犯の特定にも手間取って、事件の公表は遅れた。独内務省は先週末、容疑者三十二人の国籍を明らかにした。大半が中東や北アフリカの出身で、二十二人が難民申請者だった。
メルケル首相は昨年九月、人道上の配慮から、シリアなどからの難民を積極的に受け入れる方針を表明。難民申請のため昨年、ドイツに入国した人数は百九万人に上った。各都市は分担して難民を受け入れ、宿泊施設を確保し、ボランティアらも加わって面倒をみている。
容疑者の一人は警察官に「メルケル首相に招待されてこの国に来た。親切に扱え」と話していたという。事件に難民が関与していたとすれば、恩を仇(あだ)で返す許されない行為だ。真相を究明し、厳しく処罰するべきだろう。メルケル首相は、罪を犯した難民を、すみやかに強制送還するため、法改正をする考えを明らかにしている。やむを得ない措置だろう。
事件があったケルンでは、反イスラム団体など約千七百人がデモをして移民排斥を訴え、旧東独地域ライプチヒでは、約二千人が難民に寛容なメルケル政権に抗議した、と報じられている。
しかし、事件に乗じて、難民や移民への憎悪をあおることがあってはならない。大半の難民は受け入れてくれたドイツに感謝し、異国での生活に慣れようと努力している。トルコ人など移民の子や孫の世代は、ドイツ語を学び、独社会に溶け込んでいる。
ドイツの難民保護や、人種差別への戒めは、ナチスユダヤ人迫害への反省から基本法憲法)に盛り込まれた、国づくりの基本理念だ。
事件後も独政府は、難民受け入れ政策を堅持し、外国人差別への抗議デモに参加する市民も多い。
殺到している難民に、今後も混乱や動揺はあるだろう。ドイツが戦後、養ってきた人道主義と理性でこそ、試練を乗り越えることができるはずだ。