改造内閣発足 「1億総活躍」への疑問 - 毎日新聞(2015年10月8日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20151008k0000m070134000c.html
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第3次安倍改造内閣が発足した。10閣僚が交代したものの、主要閣僚や自民党首脳部は軒並み留任した。
政権の骨格を維持しつつ経済重視への局面転換を図った布陣だが、安全保障関連法の成立強行を過去の問題と片付けるわけにはいかない。これまでの政権運営のひずみを総点検すべきだ。
改造後の記者会見で、安倍晋三首相は「輝かしい未来への新しい挑戦」を掲げ、「経済最優先で、政策を一層強化する」と強調した。
経済政策を重視することに異存はない。だが、来夏に参院選を控え、首相のことさらの対応には、さきの国会で強まったタカ派イメージの修正が主眼との印象をぬぐえない。
これまでも首相は参院選衆院選で経済政策を争点に掲げながら、選挙後の国会では特定秘密保護法や安全保障関連法の決着を急ぐパターンを繰り返してきた。
さきの国会で、安倍政権は安保関連法を国民理解を置き去りにしたまま成立させた。本来、首相は率先してその空白を埋めるよう努めるべきだ。与党には環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の大筋合意への対応などを理由に、秋の臨時国会の見送り論が浮上している。国会を早期に召集し、きちんと必要な説明に応じねばならない。
改造人事の目玉として新設した「1億総活躍」担当相が機能するかどうかも疑問がある。首相は腹心の加藤勝信官房副長官を起用し、官庁の縦割り排除を掲げ、成長重視のシンボルとしたい考えのようだ。
だが、「1億総活躍社会」のスローガンの下、加藤氏が実際にどんな政策の領域を対象とし、何に取り組むかははっきりしていない。
強い経済、子育て支援社会保障の「新三本の矢」を首相は打ち出した。名目国内総生産(GDP)600兆円を達成するとの目標の実現性を疑問視する声は強い。
日銀の金融緩和と積極財政でも成長目標は達成できておらず、もともとの「三本の矢」の戦略が揺らいでいる。限界を来したアベノミクスの点検抜きで、あいまいなスローガンを先走らせてはなるまい。
自民党総裁に再選された首相は、長期政権を視野に参院選乗り切りを目指す。悲願とする憲法改正については国民的議論への期待を改めて強調した。自らの政権で改憲を図るのであれば、テーマ設定を含め、構想を国民に説明していくべきだろう。
米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる国と沖縄県の対立など、安倍政権がこれまでの路線を見直し、取り組むべき課題は多いはずだ。さまざまな問題を覆い隠すための経済重視であってはならない。