奨学金と保護費 教育の機会は平等に - 東京新聞(2015年8月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015082502000132.html
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貧しい家庭の子どもにも等しく教育の機会は与えられるべきだ。厚生労働省生活保護世帯の子どもの教育費に関する運用を見直した。「貧困の連鎖」解消に向け一歩前進だが、十分とはいえない。
厚労省は六日付で、生活保護を受給している福島市の母子家庭の訴えに応じ、同市による保護費の減額処分を取り消すとともに、全国の自治体にある通知を出した。
母親はうつ病を患い、数年前から生活保護を受けていた。長女は経済的な理由で高校に進学できるか不安に思っていたが、中学生のときに奨学金制度があることを知った。長女は努力を重ね、優秀な成績をおさめた。高校進学後、市や民間団体から返済不要の奨学金が年計十七万円支給されることが決まった。修学旅行費や塾代などに充てる予定だった。
しかし、市は昨年四月と五月に支給された奨学金九万円を「収入」と認定し、保護費から同額を差し引いた。母親らは福島県に収入認定取り消しを求め、審査請求したが棄却。国に再審査を請求し、福島地裁に提訴していた。
厚労省は処分取り消しを決定。加えて、学習塾代などに充てる場合は奨学金でも収入とみなしていた運用ルールを改め、収入から除外するよう各自治体に通知した。新ルールは高校生のアルバイト収入にも適用される。
ただ、大学の受験料や入学金などは引き続き収入とされる。子どもの成長を後押しするため、奨学金は全額、収入から除外するべきではないか。
子どもの貧困対策推進法は「子どもの将来が生まれ育った環境に左右されることのないよう教育の機会均等を図る」ことをうたう。
低所得の世帯に生まれた子どもが十分な教育を受けられずに、低賃金の職業を選択せざるを得ないという「貧困の連鎖」を食い止めるのは、国家的な重要課題だ。
大卒者と高卒者の賃金格差は小さくない。一九九〇年代初めには百七十万人近くあった新規高卒者への求人も近年は二十万〜三十万人と激減している。
二〇一三年三月卒業生で、生活保護世帯の高校生の大学進学率は19%で、全体の五割超と比べ低い。
生活保護受給者数は二百十六万人に上るが、うち一割超は十七歳以下の子どもといわれる。
貧困からの脱出の鍵は教育にある。親が亡くなる、病気で働けなくなるなどし、生活保護を受給している家庭に育つ子どもたちにこそ機会は必要だ。