安保転換を問う:民主党 安保観をより体系的に - 毎日新聞(2015年7月30日)

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安全保障関連法案の参院での審議が始まり、民主党など野党に対案の提出を促す発言が政府・自民党から相次いでいる。安倍晋三首相は「一致点を探るのは与野党の責任」として対案提出を求めたが、民主党は政府案の追及を優先する構えだ。
政府案を説明する自らの責任を脇に置いて、野党にことさら対案提出を迫るのは、筋違いだ。民主党も内部対立を封印するため、政策の取りまとめを手控えるようでは困る。野党第1党にふさわしい安全保障観をより体系的に整理して、国会論戦にのぞんでほしい。
民主党は今春、集団的自衛権について「安倍政権が進める行使は容認しない」との見解をまとめ、武力行使を伴う中東・ホルムズ海峡での機雷掃海など、政府案が想定する対応には現実的な必要性がないと結論づけた。だが、行使について、将来的な可能性まで排除したわけではなく、党内の議論は集約できていない。
その後、沖縄県尖閣諸島武装した漁民が上陸した場合などに対処する領域警備法案を維新の党とともに衆院に提出した。米軍への後方支援に関する政府の重要影響事態法案では、地理的制約を維持した周辺事態法改正で対処を検討している。
参院審議にあたり、党内には対案策定を急ぐべきだとの意見もあった。だが、北沢俊美元防衛相が「国民が求めるのは対案ではなく廃案だ」と語るように今は沈静化している。枝野幸男幹事長は「違憲法案への対案などあり得ない」と強調する。
そもそも、対案を求める与党側が、本気で野党と一致点を探ろうとしているかは疑問だ。維新の党は個別的自衛権の観点から対処しようとする独自案を今回、衆院に提出した。ところが与党は2度協議をしただけで、政府案の衆院での強行採決に踏み切ってしまった。
一方で、民主党も党内論議を放置すべきではない。「遠くは抑制的、近くは現実的(に対応)」との説明は具体的に何を意味するのか。同党の見解は「近隣有事における日米同盟協力の深化などについて必要な措置を取るべき」だとの姿勢も示している。与党に言われて対案を提出する義務は無いとはいえ、自主的に政策を体系的に整理する必要はある。それは与党を利するどころか、逆に議論を深めることにつながろう。
最近の世論調査での内閣支持率急落にもかかわらず、民主党への支持が回復しないのは政権担当能力への国民の根強い不安の反映だろう。国会での政府案の追及と同様に、安倍政権との対立軸を明確にしていく責任も忘れてはならない。