集団的自衛権容認1年 立憲主義を守らねば - 東京新聞(2015年7月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015070202000185.html
http://megalodon.jp/2015-0702-1049-55/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015070202000185.html

安全保障法制に国民の半数以上が反対しているのは、憲法違反の疑いがあるからだ。集団的自衛権の行使を認めた閣議決定そのものを見直すべきである。
「光陰矢のごとし」である。
安倍内閣が昨年七月一日、政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認に転じる閣議決定をしてから一年たった。
昨年十二月の衆院選を挟み、自民、公明両党は今年二月、安保法制関連法案をめぐる協議を再開。五月には政府が、集団的自衛権の行使に道を開く安保関連法案を国会に提出し、現在、衆院平和安全法制特別委員会で審議中だ。
◆審議とともに反対増
特別委での審議時間は、安倍晋三首相も出席する三日の集中審議を終えれば、与党がめどとする八十時間を超える。六日の沖縄、埼玉両県での参考人質疑に続き、与党側は八日に中央公聴会を開くよう提案するなど、委員会採決のタイミングをうかがう。
しかし、これだけ審議時間を重ねても、安保法制は国民の理解を得るには至っていない。
共同通信社が六月二十、二十一両日に実施した全国電世論調査では、安保法案「反対」は58・7%で、五月の前回調査から11・1ポイント増えた。法案の今国会成立「反対」も前回より8・0ポイント増の63・1%。審議を重ねるほど、法案反対が増えているのが実情だ。
なぜ、国民の理解が広がらないのか。それは安保法案の柱である集団的自衛権の行使が、多くの憲法学者から「憲法違反」と指摘されているからにほかならない。
法案がよりどころとしている、行使を認めるために政府の憲法解釈を変更した閣議決定の正当性にも疑問が投げかけられている。
安倍政権はまず、こうした指摘を重く受け止めるべきである。
◆「砂川」持ち出す無理
昨年七月の閣議決定は、一九七二年の政府見解「集団的自衛権憲法との関係」の基本的な論理を受け継いではいる。
憲法九条は、日本の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を禁じておらず、外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される急迫、不正の事態に対処し、これらの権利を守るためのやむを得ない措置としての必要最小限度の武力の行使は許容される、というものだ。
七二年見解では、この基本的な論理から、他国に加えられた武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの結論を導き出しているが、昨年七月の閣議決定は結論を入れ替え、憲法が認める「自衛」には集団的自衛権の一部も含まれると主張した。
七二年見解は、それまで国会で積み上げてきた議論を基に組み立てられており、それ以降も自民党政権を含めた歴代内閣が四十年以上堅持し、定着したものだ。
現行憲法が、他国同士の戦争に参戦する集団的自衛権の行使を認めていると読み解くのは無理がある。一内閣の判断で憲法を正反対の意味に強引に読み替える「解釈改憲」は到底許されない。
集団的自衛権を行使しなければ日本の平和と安全を維持できないのなら衆参両院で三分の二以上の賛成を得て憲法改正を発議し、国民投票に判断を委ねるのが筋だ。
憲法学者の多くが安保法案を違憲と批判したことを受けて、政府が再び持ち出したのが五九年の砂川事件判決である。
首相は衆院予算委員会での答弁で「砂川判決で、自衛権はあると最高裁は判断した。判決では個別的自衛権集団的自衛権について触れていないが、時々の内閣が必要な自衛の措置とは何かを考えるのは当然だ」と述べた。
しかし、砂川事件では米軍駐留の合憲性が問われ、日本が集団的自衛権を行使できるか否かは議論されていない。判決が認める自衛の措置に集団的自衛権が含まれると解釈するのは強引に過ぎる。
安倍首相は、国際情勢の変化を口実に、憲法解釈など変えてもいいと考えているようだが、そのようなことをすれば最高法規としての憲法の規範性が揺らぐ。憲法で国家権力を縛る立憲主義の本質にあまりにも無自覚ではないか。
◆憲政に汚点を残すな
海外で武力の行使をしない「専守防衛」を貫いてきた現行憲法の平和主義は、日本国民だけで三百十万人の犠牲者を出した先の大戦の反省にも基づく。
国会会期は現行憲法下で最長の九十五日間延長され、政府と与党は安保法案を会期内に成立させる構えだが、そもそも法案が根拠とする閣議決定自体に無理がある。
安保法案の撤回、廃案はもちろん、安倍内閣閣議決定を白紙に戻すべきである。国民多数が反対する法案の成立を強行し、憲政史上に汚点を残してはならない。