http://www.jiji.com/jc/zc?k=201501/2015012000475&g=
【オシフィエンチム時事】ポーランド南部にあるナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所跡の国立博物館で、日本人唯一の公認ガイドを務める中谷剛氏(49)=神戸市出身=が20日までに当地で時事通信のインタビューに応じた。旧ソ連軍による解放から70年となるが、「(なぜ大虐殺が起きたのか)答えを出してしまうのは危ない。流動的な世界情勢の中で、答えはすぐに通用しなくなる。問い続けることが大事」と訴えた。
1997年から日本人向けにガイドを続け、全体で過去最高の訪問者数(約153万人)を記録した2014年は400回以上案内した。日本からの14年の訪問者は1万5000人余り。たいていの訪問者は生々しく残る虐殺の痕跡に触れ、黙り込むことが多いという。中谷氏は「答えの出ない自分にもやもやしながら帰って行く。そういった人たちのほうがよほど多くのことを受け止めてくれる」と肯定的だ。
今月のフランス連続テロ後には、以前案内した人たちからメールが届き、「アウシュビッツで見たこと(民族や宗教間の問題)がフランスのテロにもつながっているのではないか」という問い掛けを受け、確実に訪問者の記憶と問題意識が根付いていることを感じた。
案内の際には「ナチスを批判したり、ユダヤ人に同情したりするだけで終わらないこと。今の社会に結び付けて、アジアの共生のヒントにしてもらいたいという思いが強い」。特定の人種や民族への差別をあおる日本のヘイトスピーチ(憎悪表現)には懸念を持っている。「当時のドイツでは『ユダヤ人は出て行け』という言葉から始まった。ヘイトスピーチがどこに至り得るかを考えるきっかけにもしてほしい」と望む。
日本でメーカーの営業職をしていたが、かつて旅行したことのあったポーランドに91年に25歳で渡った。もともと戦争に興味はなかったものの、ポーランドで少しずつ歴史を知るうちにのめり込んだ。強制収容所で起きたことを考え始めると、「人間とは何かという問題に行き当たる。人がどうして他の人にこんなことをできるのか。どういう条件に置かれると、そんなことをするのか。ここはそれを問い続けようという場所だ」。アウシュビッツ博物館の役割は今も大きいと確信している。