(筆洗)「アパートの鍵貸します」などの米映画監督のビリー・ワイルダ…-東京新聞(2014年12月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014122102000125.html
http://megalodon.jp/2014-1222-0918-29/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014122102000125.html

アパートの鍵貸します」などの米映画監督のビリー・ワイルダーは一本の小説に惚(ほ)れ込んだ。「素晴らしい本だ」。自分の手で映画化を願った。
代理人を通じ作家を熱心に口説いたようだ。ある日、一人の青年が代理人の事務所にやって来た。「手を引くようにお伝え願いたい。あんなに無神経な人間はいない」。そう言って帰った。青年の名はJ・D・サリンジャーワイルダーが映画化を考えていたのは『ライ麦畑でつかまえて』だった。
いささか無礼な断り方だが、これに比べればよほどまともに聞こえる。米喜劇映画「ザ・インタビュー」の公開が中止になった。一種のテロ行為が「手を引け」と公開を阻んだ。
北朝鮮金正恩第一書記が描かれた映画を「笑えない」と思い込んだ誰かが映画会社にサイバー攻撃を加え、脅迫した。FBI北朝鮮が関与していると断定している。
映画会社や上映館側が報復を恐れ、公開に及び腰になるのは分からないでもないが、中止の判断はオバマ大統領が強調するように「間違っていた」かもしれない。表現の自由を「暗殺」するときは、この手が使えると「誰か」に思わせてはならないのである。
騒動のせいで作品の内容はあまり話題になっていないが、専門家の評判はかなり悪い。だからこそ守る価値があろうというもの。どんな映画も守られる。世界は手を引いてはならない。

The Interview Official Trailer