法務大臣も国民も、死刑制度の問題に逃げずに向き合ってほしい-平岡秀夫さん(弁護士、前衆議院議員、元法相 2014年7月25日)

http://www.huffingtonpost.jp/hideo-hiraoka/death-penalty_b_5615730.html?&ncid=tweetlnkushpmg00000067

ただ、そうは言ってもだんだん死刑存続論のほうが増えてきているのは、いったい日本のどんな状況を反映しているのでしょうか。日本はどんどん治安が悪化しているかといえば、そうではありません。殺人事件の件数と、殺人事件による死亡者数を示す折れ線グラフを見ると、どんどん減ってきているわけです。数字で見れば、状況としては良くなっています。

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私が死刑問題についてしっかり国民的議論をしなければならないと思っている一つの理由は、そういう国民の意識が広まる中で、社会の寛容性がなくなってきている気がするからです。いま、法務省の大きな行政の課題は、刑務所から出てきた人の就職先がないこと。これは経済や景気の問題もありますが、就職先がない、行く先がないということなんです。社会で立ち直るためのことが、どんどん廃れて、弱くなって、縮小してきている。善悪二元論で「俺たちは善人なんだけど、あの人たちは悪人だ」と人を分類してしまって、いったん悪いことをした人たちは、なかなか社会復帰ができず、社会に寛容性がなくなってきているのです。私は、この問題の発生原因の一つは、死刑存続の支持が拡大している原因と根底で共通しているのではないかと思っています。

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死刑制度廃止や死刑執行停止の問題として、日本は、世界から様々な勧告を受けています。死刑制度の運用に関しても「死刑囚に対する処遇に非常に問題がある」「高齢者や障がい者に対する死刑執行の問題はちゃんとできているのか」といったことや、弁護士との面会の問題をずいぶん指摘されています。一方で、日本では、制度の有無だけではなく、もはや死刑制度自体を語るのがタブー視されています。聖域化されてしまって、死刑囚がどんな処遇を受けているのか聞こうとするだけで、世の中から白い目で見られる状況が発生しています。こういう問題にもきちんとメスを当てていかなければいけないと思います。

アメリカも死刑執行している先進国のひとつですが、死刑に対する情報公開が非常に進んでいて、制度そのものについての議論もあれば、死刑執行のあり方について、あるいは死刑確定者に対する処遇のあり方についても、様々な議論が行われています。それが、日本では全く行われていないということが、もう一つの問題です。

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「フランスでは、バダンテール司法大臣が死刑を廃止した」と言われることがありますが、バダンテールが死刑をやめたわけではない。ミッテラン大統領が死刑廃止を公約に掲げて大統領に当選して、それを実行するために、バダンテールを司法大臣として使って、実現させたのです。それぐらいフランスにおいても大きなテーマでした。死刑を廃止する条約に参加するときのモンゴルの大統領の演説、それから金大中(韓国)、陳水扁(台湾)。これらの例にみられるように、いずれも国のトップが腹を固めていかなければできなかったし、これからもそうでしょう。その時には、実際に法務大臣も、しっかりした理論構成や、いろんな問題に対応できるような、能力をもった人がやらなければいけない。死刑制度の廃止はそれだけ大きな問題です。