いま、学校で(5) 担任が教室で子守代行 - 西日本新聞(2016年2月20日)

http://www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/225746
http://megalodon.jp/2016-0220-1341-20/www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/225746

「進級が厳しいから、面倒をみてもらえないか」
九州北部の私立高校。昨年1月、同校教諭の合田保(52)は、1年生の担任から望(16)について相談を受けた。
望は、ひと月約3万円の奨学金を受けているが、1月までに振り込みがあった学費などの校納金は、2カ月分の約6万円だけ。3月までに残額の約30万円を納めなければ進級ができず、退学処分になる。
望は母子家庭で、母親は無職。生活保護を受けているが、奨学金も生活費に充てていた。「支払う金がない」と途方に暮れる母親に、合田は提案した。
奨学金の通帳と印鑑を私に預けませんか。学校側と掛け合って、何とかお子さんを卒業させます」
合田はいま、望を含めて5家庭から通帳と印鑑を預かる。親から委任状をとり、卒業までの納入計画書を学校側に提出し、奨学金のやりくりを代行する。これまで、十数人の生徒を同じ方法で卒業させた。
当初、学校側はトラブルを恐れて合田の活動に難色を示していたが、今では認めている。「本当はやってはいけない事かもしれないが、生徒を卒業させるためにはやむを得ない。親からも感謝されている」
       ‡
九州のある小学校。4年生の担任教諭、大迫裕子(48)は、生後10カ月の赤ちゃんを抱いたまま、5時間目の授業をしていた。机に向かう児童の間を行ったり来たり。幸い、赤ちゃんはずっと寝息を立てている。
赤ちゃんは、このクラスの遼(10)の一番下の妹。ほかに小2、保育所の年長、年中がいる5人きょうだい。生活保護を受ける母親と暮らす。大迫が教室や職員室で赤ちゃんを預かるのは、これで5回目。理由はこうだ。
1学期、母親からたびたび「給食を食べたら遼を家に帰して」と学校に電話がかかり、やむを得ず帰していた。
母親は子守を長男の遼に任せて、通院や買い物のため外出していた。遼は朝も弟妹を保育所に送ってから登校するため、たびたび遅刻。成績は落ち、友達は離れ、クラスでも浮き始めた。
「どうしても出掛けなきゃいけないときは、学校に連れてきて」。昨秋、大迫がこう伝えると、母親はさっそく赤ちゃんを職員室に連れてきた。
遼の早退は次第に減ってきた。休み時間に計算や漢字に取り組み、勉強の遅れを取り戻そうとしている。
赤ちゃんが教室に来たことで、家庭事情を知った級友は「大変やな」と遼に声を掛けるようになった。昨年末には母親のパートが決まり、赤ちゃんも近く保育所に入ることが決まった。
教師がそこまでする必要があるのか、と言う同僚もいる。大迫は、遼の母親も貧しいひとり親家庭に育ったことを知っている。教師にとって「困った親」も、かつて救われなかった子どもかもしれない−。「家庭が荒れていたら、子どもは救えない。家庭を変えていかないといけないんです」
合田と大迫。一教師の踏み込んだ行動が、子どもたちを支えている。 (登場人物はいずれも仮名)
=おわり

いま、学校で(4) いつか高校に行きたい - 西日本新聞(2016年2月19日)

http://www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/225523
http://megalodon.jp/2016-0220-1341-55/www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/225523

16歳の朱美は昨年3月に九州北部の公立中学校を卒業し、今はアルバイトをしながらお金をためている。
2年前の春。スクールソーシャルワーカーの佐藤真由子(38)は、いつも黒ずんだブラウスを着ている3年生の朱美の姿が気になった。声を掛け続けると、1カ月ほどたったころ朱美が打ち明けた。
「うちには、お金ないけんさ」
派遣労働者の父親と2人暮らし。借金取りに気付かれないよう、公営団地の部屋の電気をつけず息を潜める夜があること。
食事は、給料が出たときに父親が買い込んだカップ麺と菓子パンばかりで、制服のブラウスも1着しか持っていないこと。
朱美が徐々に心を開いてきた1学期のある日、佐藤が家庭訪問すると、「暇だから勉強しとった」。手には使い古した参考書。朱美の成績は学年で中の上。生活は苦しくても勉強は欠かさず、公立の普通高校に合格する学力があった。
担任は奨学金を借りて進学するように説得した。だが、父親は「奨学金も借金やろ。高校なんか行かんでいい」と拒み続けた。
2学期に入り、3年生は進学の話題でもちきりになる。朱美は「学校は嫌いだから、高校には行かん」と言い張り、やがてほとんど登校しなくなった。結局、進学せずに卒業した。
でも、朱美は進学をあきらめていなかった。卒業後しばらくして、佐藤の携帯に連絡してきた。
「すぐに進学しなくても、高校に行けると?」。働きながら通える定時制高校があると伝えると、「お金をためていつか行くよ」。
   ◇   ◇
朱美が目指す定時制高校。そのうちの一校に通う潤(17)は朝5時半に家を出て建設現場で働き、学校へ着くのは午後5時半ごろ。作業着姿で9時まで授業を受ける。
「早く自分の力で生活できるようになりたい」。潤の表情は明るい。
母親と2人暮らし。毎月約13万円の生活保護費が暮らしを支える。潤は毎月10万円の給料から7万円を蓄え、1人暮らしに備える。
潤の頑張りには理由がある。従来、生活保護世帯の高校生が収入を得た場合、保護費が減らされていた。だが、国は、2014年度から進学や自立のための預貯金であれば、保護費は減額されない、と実施要領を改正した。
そのことを潤は入学した2年前の春、担任の橋田進一(49)から教えられた。
ただし、卒業後に就職しても、1人暮らしをしない限り「世帯収入」とみなされ、母親の保護費が減額される。蓄えは母親のためでもあり、「建設会社を起こして家を建てたい」という自分の夢のためでもある。
この定時制高校で、生徒の3割は生活保護世帯。ただ、潤のように預貯金ができている生徒はまだ3人にとどまる。
橋田は言う。「預貯金ができるようになり、貧困の連鎖を断ち切るチャンスが広がった。生徒たちを後押ししていきたい」
(登場人物はいずれも仮名)

参院選 共産、1人区擁立せず 他野党との競合区 - 毎日新聞(2016年2月20日)

http://mainichi.jp/articles/20160220/k00/00m/010/162000c
http://megalodon.jp/2016-0220-1334-48/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160220-00000003-mai-pol

共産党は19日、夏の参院選で32ある1人区で独自候補を原則取り下げる方針を固めた。同党は現在、32選挙区中29選挙区で候補を擁立しているが、「一本化」に協力。野党票の分散を回避する考えだ。同党は同日、民主、維新、社民、生活の4党との党首会談を開き、安全保障関連法廃止などの方針で合意。共産の主張が受け入れられた格好となり、選挙協力での譲歩を決めた。
共産は昨年9月、安保関連法廃止を目的にした「国民連合政府」構想を打ち出し、野党の選挙協力の条件としていた。しかし、志位和夫委員長は19日の党首会談で「大義実現のため構想は横に置く。1人区で思い切った対応をしたい」と述べ、条件を付けずに候補者調整に応じる考えを示した。
5党は23日に幹事長・書記局長会談を開き、具体的な一本化の協議を開始する。
党関係者によると、29選挙区のうち、民主と競合する14選挙区では、候補者が共産との協力を拒否する場合などを除き、取り下げる。一方、民主推薦の無所属候補と競合する山形、石川などの7選挙区については、これまでは当選後の民主党入りに反対していたが、方針を転換して容認。両党の地方組織での協議も踏まえ、取り下げる方針だ。共産のみが擁立している8選挙区については、他の4党が擁立しない場合は取り下げない。
1人区は参院選の勝敗を左右するため、多くの選挙区で民主と競合する共産の対応が焦点になっていた。共産は、1人区取り下げによって与野党対決の構図を鮮明にすることで、比例票や複数区の得票増につなげる狙いがある。
一方、党首会談では、民主の岡田克也代表が関連法廃止と集団的自衛権行使を認めた閣議決定の撤回▽安倍政権打倒を目指す▽国政選挙で現与党とその補完勢力を少数に追い込む▽国会対応や国政選挙のあらゆる場面で協力する−−の4点を呼びかけ、5党で合意。5党は関連法を廃止する「平和安全法制整備法廃止法案」と「国際平和支援法廃止法案」を提出した。【田所柳子、飼手勇介】

辺野古の仮設工事費2.5倍に 契約変更、1年間で4回 - 朝日新聞(2016年2月20日)

http://www.asahi.com/articles/ASJ2B4QMDJ2BUUPI001.html?iref=sptop_6_01
http://megalodon.jp/2016-0220-1144-32/www.asahi.com/articles/ASJ2B4QMDJ2BUUPI001.html?iref=sptop_6_01


米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設予定地とされる名護市辺野古に仮設桟橋などを造る工事について、防衛省が発注後の1年間に契約を4回変更し、工事費が当初の59億円から147億円と2・5倍に膨らんでいたことが朝日新聞の調べで分かった。抗議活動への対応で追加工事が必要になったためというが、「当初の入札の意味がない。新たな契約を結ぶべきだ」と批判が出ている。
この工事は本体着工前の準備工事だが、その後に発注された本体工事でも契約が直後に変更され、当初より150億円以上増えたことも判明。防衛省は2014年3月、移設の総経費を「3500億円以上」と明かしたが、膨らむ恐れがある。
2・5倍になったのは「シュワブ(H26)仮設工事」。沖縄防衛局は14年6月に指名競争で入札を実施し、大手ゼネコンの大成建設と59億6千万円で契約した。落札率は97・9%だった。
沖縄防衛局や契約関係書類によると、工事内容は、仮設の浮桟橋・桟橋の設置▽フロート(浮き具)やブイ(浮標)の設置▽安全対策。防衛省は14年7月、移設予定地周辺の海域約560ヘクタールを日米地位協定に基づき立ち入り禁止と設定しており、フロートやブイはその周囲に設置された。
辺野古移設に反対する人たちは、カヌーでフロートを乗り越えて立ち入り禁止区域内に入るなどの抗議活動をしている。防衛局は当初契約4カ月後の14年10月、「フロートの設置数量が追加となった」として契約を変え、47億8千万円増額した。防衛省関係者は「カヌーが入れないようにフロートを二重三重にした。安全確保のために仕方がない」と説明する。

安保法廃止法案を提出 5野党、違憲と訴え - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021902000261.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1033-06/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021902000261.html

民主、共産、維新、社民、生活の野党五党は十九日午前、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法を廃止する関連二法案を衆院に共同提出した。安保法は三月末までに施行され、法律として効力を持つようになる。五党は、「違憲」との指摘もある安保法の問題点を施行の前に国民に訴え、四月の衆院補選や夏の参院選での争点化にもつなげたい考えだ。
五党は法案提出に先立ち、党首会談を国会内で行い、安保法の廃止のほか、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更をした二〇一四年七月の閣議決定の撤回を共通目標とすることを確認した。夏の参院選など国政選挙で与党を過半数割れに追い込むことでも一致した。
民主党岡田克也代表は会談後、五党の選挙協力などについて「合意事項に基づき、具体化を早急に進めたい」と述べた。共産党志位和夫委員長は会見で、廃止二法案について「安保法に不安と怒りを持つ多くの国民の声に応えた法案だ。国会で真剣に審議することを求めたい」と述べた。
廃止二法案は、集団的自衛権行使を可能にする武力攻撃事態法など関連する法律十本を一括して改正した「平和安全法制整備法」と、国際貢献を目的に他国軍支援を随時可能にする「国際平和支援法」をそれぞれ廃止するとしている。
民主、維新両党は廃止二法案とは別に十八日、安保法の対案として領域警備法案など三法案を衆院に提出した。
◆「反対」の世論 共闘後押し
安全保障関連法の成立から五カ月を経ても反対を続ける世論に押され、野党五党が廃止法案の共同提出で足並みをそろえた。「一強」の安倍政権に結束して対抗するために、国会共闘を国政選挙での協力に結び付けられるかどうかが今後の課題になる。
安倍内閣の支持率は、一月末の共同通信社世論調査で53・7%と高水準を保っている。一方で「政治とカネ」にまつわる閣僚辞任や、不用意な発言などトラブルが相次ぎ、政権内に不安材料も目立ってきた。
対する野党五党は、衆院では定数の約四分の一の計百十八議席参院では約三分の一の計八十五議席にとどまる。現状では廃止法案の成立どころか、審議入りさせることも難しい。政策面でも、かなり開きがある。例えば、維新の党は改憲を基本政策に掲げるのに対し、共産、社民両党は改憲そのものに反対だ。
それでも安保法をめぐっては、安倍政権が昨年九月、「憲法違反」との声が国会の内外に広がる中で成立させたことに五党が一致して抗議した。これを機に、四月の衆院補選や夏の参院選に向け安保法廃止を合言葉に野党統一候補の擁立を模索する動きが各地で始まっている。 (宮尾幹成)

 法制局文書 国会提出は当然だ - 朝日新聞(2016年2月20日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12218065.html?ref=editorial_backnumber
http://megalodon.jp/2016-0220-1059-30/www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_pickup_p

政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定は正当なのか――。
いまなお論争が続くこの問題に関連し、内閣法制局が内部文書の国会提出を拒んでいる。
焦点になっているのは、法制局が国会審議に備えてつくった「想定問答」だ。横畠裕介内閣法制局長官参院の決算委員会で存在を認める一方、公文書管理法で保存が義務づけられている「行政文書」にはあたらないとの見解を示した。

受け入れ難い答弁だ。
公文書管理法の趣旨は、行政機関の意思決定の過程を外から検証できるよう文書保存を義務づけるものだ。横畠長官は「担当者から想定ベースの答弁資料の案をもらった」としながらも、使えないと判断して差し戻した文書だから保存義務はないと説明する。しかし、それこそが法制局内の意思決定の過程を示す文書ではないか。
行政機関が恣意(しい)的な判断で文書を保存する、しないを決めてしまえば、あらゆる政策決定の是非を検証できなくなってしまう。国民の判断材料を奪うことになり、ひいては民主主義の土台を崩す。
かりに想定問答が公文書管理法が定義する行政文書に当たらないとしても、憲法9条の解釈変更という重大な決定に関わる文書である。国会から求められれば提出するのは当然だ。
かつて内閣法制局は、集団的自衛権の行使を認めるには「憲法改正という手段をとらざるを得ない。従って、そういう手段をとらない限り(行使は)できない」と答弁し、歴代内閣はこの見解を踏襲してきた。
これを2014年7月の閣議決定で変えてしまったのは安倍内閣である。
この解釈変更には与党も大きく関与したが、内閣法制局内でどんな検討がなされたか、可能な限り資料を集め、検証するのは国会の役割だ。
閣議決定を受けて制定された安全保障関連法は、憲法違反の疑いが極めて強い。民主党など野党5党はきのう、その廃止法案を提出した。
それでも安倍政権は、3月に安保法を施行する見通しだ。裁判所に違憲と判断される可能性がある法が運用されることになれば、「法の支配」に反する状況になりかねない。
内閣法制局が文書の開示を拒み続ければ、閣議決定の正当性に対する国民の疑問はかえって深まるのではないか。
これは法制局という官僚組織の問題ではない。政権全体の問題である。

世界の風力発電、原発抜く 15年、新設過去最大 - 東京新聞(2016年2月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016022001001291.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1205-58/www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016022001001291.html

世界の風力発電の発電能力が2015年末に14年末比17%増の4億3242万キロワットに達し、初めて原子力の発電能力を上回ったことが、業界団体の「世界風力エネルギー会議」(GWEC、本部ベルギー)などの統計データで20日、明らかになった。
15年に新設された風力発電は6301万キロワットと過去最大で、原発約60基分に相当する。技術革新による発電コストの低下や信頼性向上を実現し、東京電力福島第1原発事故などで停滞する原発を一気に追い抜いた形だ。日本は発電能力、新設ともに20位前後にとどまり、出遅れが鮮明になった。
(共同)

核実験で被曝、船員保険を集団申請へ 高知の元乗組員ら - 朝日新聞(2016年2月20日)

http://www.asahi.com/articles/ASJ270075J26PTIL019.html
http://megalodon.jp/2016-0220-0913-35/www.asahi.com/articles/ASJ270075J26PTIL019.html


マーシャル諸島で米国が1950年代に繰り返した核実験で被曝(ひばく)したとして、周辺海域にいた漁船の元乗組員らが「船員保険」の適用を求めて集団申請する。発症した病気が被曝によるものと認められれば、事実上の「労災」として扱われる。60年以上にわたって調査が放棄されたことへの疑念と憤り――。元乗組員らの間には、「闇に葬らせない」との思いも強い。
市民団体「太平洋核被災支援センター」(事務局・高知県宿毛市)によると、船員保険を申請する意向を持つのは高知県内の80代の元乗組員5人と遺族2人の計7人。さらに数人増える見通しで、申請先は「全国健康保険協会」を予定しているという。元乗組員らはがんや心筋梗塞(こうそく)などを患ったとされ、被曝が原因と認められると、治療費の自己負担分がなくなるほか、遺族年金も支給される。
岡山理科大の豊田新(しん)教授(放射線線量計測)が元乗組員5人のうちの1人の歯を分析したところ、最大414ミリシーベルトの被曝が確認された。71年前に広島に投下された原爆に当てはめた場合、爆心地から1・6キロでの被爆に相当する線量という。ほかの元乗組員らについても、白血球の減少を示す当時の血液検査結果が残っているという。
一方で、被曝の線量が分かったとしても、放射線が病気や死因にどう関わっているのかを証明するのは難しい。すでに元乗組員は高齢になっており、生活習慣を含むほかの原因とされる可能性もある。

原発避難者判決 柔軟な救済への一歩に - 毎日新聞(2016年2月20日)

http://mainichi.jp/articles/20160220/ddm/005/070/042000c
http://megalodon.jp/2016-0220-1047-19/mainichi.jp/articles/20160220/ddm/005/070/042000c

福島第1原発事故による自主避難者の救済を後押しする司法判断だ。原発事故で福島県郡山市から京都市に避難した夫婦に約3000万円を支払うよう京都地裁東京電力に命じた。全国各地で同様の集団訴訟が起こされているが、自主避難者への賠償を認めた判決は初めてという。
飲食店を経営していた原告の40代男性は2011年3月の原発事故直後に避難を始め、不眠症うつ病になり働けなくなった。男性宅は避難指示区域外にあるが、東電が賠償金を払う自主避難対象区域となり東電は約300万円を賠償した。男性は不服として政府の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てたが交渉はうまくいかず提訴した。
判決は、原発事故がうつ病などの発症原因の一つと認定し、就労不能による休業損害と事故との因果関係も認めた。「転居を余儀なくされ、安定した生活が失われた」として男性と妻への慰謝料支払いも命じた。賠償額はADRで示された約1100万円を大きく上回り、自主避難者の救済拡大に弾みをつけるものだ。
賠償問題の迅速な解決を目的にしたADRには約1万9000件の申し立てがあり、一律・定額の基準によって約1万3500件が既に和解している。強制的に避難させられた住民と自主避難者との間に慰謝料などで大きな格差があるという指摘があった。判決は「個別具体的な事情に応じて損害と認められることがある」とし、賠償のあり方に厳しい姿勢を見せた。
一方で判決は賠償期間を12年8月までと限った。それ以降は男性宅のある地域の放射線量が被害のない程度に下がり、自主避難を続ける合理性がないという理由からだ。東電は国の審査会の指針に基づき賠償時期を12年8月までと決めており、判決はこれを追認したとも言えるが、原告側には不満が残る結論だろう。
政府は今後、賠償制度を見直す考えだ。その際、一律の線引きではなく、個別の被害状況に応じた柔軟な対応を検討すべきではないか。
原発事故による自主避難者は約1万8000人と推定され、国や福島県は帰還を促しているものの、放射線への不安はいまだに大きい。家族がばらばらに避難生活を送ったり、心身の不調を訴えたりする住民は多い。福島県は避難先の住宅の無償提供を来年3月で打ち切るが、避難者の生活が困窮しないよう、きめ細かな支援策をとらねばならない。
事故から間もなく5年たつ。避難生活の長期化は経済的だけでなく精神的・肉体的に被災者を苦しめる。自主避難者の置かれた現実に見合った救済方法を考える必要がある。

3・12 爆発前、ベントの白煙 福島第一原発1号機 - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021902000262.html?ref=rank
http://megalodon.jp/2016-0220-0907-04/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021902000262.html?ref=rank

東京電力福島第一原発事故で、東電は事故発生翌日の二〇一一年三月十二日に、1号機でベント(排気)を実施した。その鮮明な映像を、写真家の石川梵(ぼん)さんが撮影していた。本紙に提供された写真には、排気筒から北にたなびく白煙がはっきり写っている。
1号機は地震津波に襲われた十一日の夕方には炉心溶融が起き、炉内の圧力が危険な状態になった。東電は十二日午前にベントを試みたが失敗。午後二時半ごろに再び試みた。ベントの成否はこれまで、ライブカメラの不鮮明な映像や、格納容器の圧力低下で確認できたとされてきたが、ここまで鮮明な映像で確認できたのは初めて。
石川さんは当時、津波で壊滅的被害を受けた宮城県気仙沼市を小型機で撮影した帰りだった。本紙の取材に「撮影したのは午後二時四十分ごろ。気仙沼に向かう時は福島第一原発の様子がおかしいとは思わず、敷地内が津波でやられているとも思わなかった。帰りに排気筒から煙が出ているのを見て、とんでもないことが起きているのではと思い、シャッターを切った」と話した。
1号機はその一時間後の同三時三十六分、建屋上部にたまったガスにより水素爆発を起こした。


東日本大震災の翌日に写真家の石川梵さんが空撮した福島第一原発。鮮明な画像から、1号機の排気筒に水蒸気のような白煙が確認できる。この約1時間後に1号機建屋は爆発した=2011年3月12日午後2時40分ごろ

原発事故 政府の力では皆様を守り切れません 首都圏避難で首相談話草案 - 東京新聞(2016年2月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000148.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1058-30/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000148.html

二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故の際、首都圏で大規模な避難が必要になる最悪のシナリオに備え、当時の菅直人民主党政権下で首相談話の作成が極秘に行われていたことが分かった。本紙が入手した草案には「ことここに至っては、政府の力だけ、自治体の力だけでは、皆様(みなさま)の生活をすべてお守りすることができません」などと万策尽きた状況を想定した部分もあり、原発事故直後の政府内の危機感をあらためて示している。
草案を作成したのは、民主党政権で官邸の情報発信担当の内閣官房参与を務めていた劇作家の平田オリザ氏。当時、文部科学副大臣だった鈴木寛・元民主党参院議員が原発事故発生から一週間後の一一年三月十八日、作成を依頼し、平田氏は二日後の二十日に書き上げた。四百字詰め原稿用紙七枚に相当する約二千八百字の長文で、避難の範囲といった具体的な数値については、発表時の放射性物質の拡散状況に対応できるよう「○○キロ圏内」などとした。
赤字で「重要原稿草案 2011・3・20」と書かれた草案は冒頭、政府の責任を認めて謝罪し、原発を所管する経済産業省や東電の責任追及を約束。その上で「国民のみなさまの健康に影響を及ぼす被害の可能性が出てまいりました」などと避難を呼び掛けた。パニックを警戒し「西日本に向かう列車などに、妊娠中、乳幼児を連れた方を優先して乗車させていただきたい」「どうか、国民一人ひとりが、冷静に行動し、いたわり合い、支え合う精神で、どうかこの難局を共に乗り切っていただきたい」などと訴えている。
平田氏はパソコンで草案を書き、鈴木氏に渡した。福島原発事故放射能汚染が首都圏に及ぶ可能性が少なくなったことから、公表しなかった。
鈴木氏は本紙の取材に「官邸の指示ではない。私が独断で準備した」と説明。ただ、原発事故の影響がさらに拡大すれば、菅首相らに提案するつもりだったという。平田氏は「談話が必要になる可能性は極めて低いという前提で、シミュレーションとして作った。実際に発表する場合にはさらに専門家を加えた検討が必要だと思っていた」と話した。
首都圏避難を伴う「最悪のシナリオ」をめぐっては当時の近藤駿介原子力委員長が一一年三月二十五日に作成。福島第一原発1〜4号機の使用済み核燃料プールが空だきになって燃料が溶融するなどの想定で、首都圏の住民数千万人の避難を示唆する内容だった。
◆私は知らない
菅直人元首相の話 東京を含め五千万人の避難が必要になるという最悪の事態は、事故発生当初から私の頭にあった。スタッフはいろんなことを想定して準備する。ただ私は(首相談話草案の存在を)知らないし、見たのも初めて。本当に避難が必要になった場合は、特別立法を含めて何らかの手だてをしたはずだ。

福島事故 首相談話草案全文 妊婦、乳幼児連れの方 優先乗車させて - 東京新聞(2016年2月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000157.html
http://megalodon.jp/2016-0220-0850-46/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000157.html

東京電力福島第一原発事故の際、当時の菅直人民主党政権下で作成された首相談話の草案全文は以下の通り。 
この度(たび)の福島第一原子力発電所の大規模事故にあたり、多くの国民のみなさまに大きな不安をお与えしていることを、改めてお詫(わ)び申し上げます。
特に、これまで四十年間、首都圏の電力を支えてきてくださった大熊町双葉町の皆様(みなさま)、近隣市町村、福島県民の皆様、隣接する茨城県宮城県の皆様には、本当に多大なご迷惑をおかけし、お詫びの言葉もございません。申し訳ありませんでした。
この度の事故は、政府、経済産業省はじめ関係諸機関、東京電力のいずれにも、多大な責任があり、今後、事態が収拾したのち、きちんとした反省、検証のみならず、責任の追及を行っていく所存です。
しかしながら、いまは、政府、東京電力自衛隊消防庁など関係諸機関、そして全国民の総力を挙げて、被害を最小限に食い止めなければなりません。どうか、その点をご理解いただければと存じます。
福島第一原子力発電所は、廃炉を前提として、とにかく、被害を最小限に抑えるように、今後も全力を挙げて対策を講じてまいります。
しかしながら、いまの時点において、国民のみなさまの健康に影響を及ぼす被害の可能性が出てまいりましたので、その点をご報告させていただきます。
まず、お願いしたいのは、現在の放射線量から考えて、いま、すぐに健康被害が起こるわけではありませんので、どうか落ち着いて、各自、冷静に対処、行動をしていただきたいということです。
繰り返します。今すぐに健康被害が起こるような事態は起こっておりません。これからの説明をよく聞いていただき、国民各位が、冷静な行動をとっていただきますようにお願いいたします。
まさに、いま、日本国民の叡智(えいち)、理性、自制心が問われています。
なにとぞ、よろしく、ご協力ください。
まず、立ち入り禁止区域を、現在の20キロ圏内から、○○キロ圏内に拡大いたします。これは、念のため、最悪の事態を想定しての避難です。
○○圏内というのは、放射性物質の拡散による直接の健康被害が起こりえる、最大限の距離をとっています。この圏内の皆様には、たいへんなご心配とご不便をおかけいたしますが、どうかご協力いただきたい。
すでに関係する自治体には連絡を取っており、現在、避難経路などを策定、指示をしていただいております。各自治体の指示に従って、ゆっくりと、焦らずに避難を行ってください。繰り返しますが、すぐに危険が迫っているわけではありません。念のため、最悪の事態を想定しての避難ですので、ゆっくりと避難をしてください。
なお、この区域の皆様には、今回の事故の安全確認が完了するまで、○か月以上の長期間の避難をお願いせざるをえません。まことに申し訳ありませんが、ご不便に耐え、安全確保にご協力いただきたいと思います。
政府としても、最大限の支援を行ってまいります。避難の長期化が避けられない地域に関しましては、政府が責任を持って、全面的に持続的な支援を行い、ご不便を最小限に抑えます。
また、放射線量の推移を見ながら、定期的に、車両などを出して、各家庭からの必要な生活用品の移動なども支援いたします。
なお、大熊町双葉町の住民の皆さまには、最悪の場合、数年の単位で将来的にも居住が難しくなることが予想されます。完全移住も含めて、政府と自治体で対応を協議してまいります。地元住民の皆様の、政府、東京電力への信頼を裏切るような結果となってしまったことを、重ねてお詫び申し上げます。
さらに屋内待避区域を、現在の30キロ圏内から○○キロ圏内に拡大いたします。繰り返しになりますが、立ち入り禁止を指示した○○圏内は、放射性物質の拡散による直接の影響が起こりえる、最大限の距離をとっています。ですから、屋内待機区域は、けっして、24時間外出禁止という区域ではありません。あくまでも念のための措置です。
外出時の注意は別途申し上げますので、極力外出を避けていただければ、健康被害は防げます。
この地域の皆様にも、食料など生活必需品の配給を責任を持って行いますので、ご協力ください。
また圏外避難をご希望される皆様にも、西日本の自治体にも協力を仰ぎ、受け入れ体制を整えます。
今日、明日、健康被害が出るわけではありません。どうか慌てずに行動してください。
それ以外の周辺地域の皆様に、健康被害の可能性について申し上げます。
お手元の資料をご覧ください。
妊娠中の方、乳幼児、○○歳以下の子ども、40歳未満の成人、40歳以上の成人について、距離別の想定される健康被害の可能性をお示ししました。
またこの数値は、風向きによって大きく変化しますが、強風の風下に立った場合の、最悪の状況を想定しての数字となっております。
たとえば、50キロから100キロの地域では、○○歳以下の子どもの、十年以内の甲状腺癌(がん)発症の可能性が、○○%から○○%となっています。屋内待避を続けていただければ、この数値は、大幅に下がります。
他の地域でも同様に、屋内待避を続けていただければ、長期にわたる健康被害の可能性が、大幅に低下します。
ただ、比較的安全な○○キロ圏外の皆様でも、妊娠中の方、乳幼児をお持ちの方が、それでも不安を感じられるということは否定できません。こうした方々の不安に応えるためにも、ぜひ全国民にご了解いただきたいのですが、西日本に向かう列車などに、妊娠中の方、乳幼児を連れた方を優先して乗車させていただきたい。
くりかえしますが、成人に、すぐに健康被害が出るわけではありません。100キロ圏内に、一週間以上とどまっていても、屋内待避を続けていれば、健康被害は起こりません。
どうか、理性と、強い自制心を持って、この最大の国難に、国民一丸となって対処していただきたいと存じます。
放射線の量は、風向きなどで刻一刻と変化します。ふさわしくない喩(たと)えかもしれませんが、花粉の飛散に似ています。政府は、各地の放射線量の情報を逐次、国民のみなさまに提供し、待避、外出の指針としていただくよう努めてまいります。
なお、念のため申し上げておきますが、この度の原発事故では、チェルノブイリ原発事故で起こったような放射性物質の大量拡散、いわゆる「死の灰」の飛翔(ひしょう)、大気に乗っての拡散の可能性はありません。放射線の拡散だけならば、政府の指示に従って充分な距離を置けば被害は防げますし、また時間をおけば、安全性の回復が望めます。この点をご信頼いただき、冷静な行動をとっていただくことをお願いいたします。
政府は、全力を挙げて、事故対策、避難支援、生活支援に取り組みます。しかしながら、ことここに至っては、政府の力だけ、自治体の力だけでは、皆様の生活をすべてお守りすることができません。どうか、国民一人ひとりが、冷静に行動し、いたわり合い、支え合う精神で、どうかこの難局を共に乗り切っていただきたいと願います。
重ねて、政府、東京電力の不手際をお詫びし、国民全般の最大限のご協力をお願いいたします。
※文中の「○○」など草案全文は原文のまま。避難の範囲や期間など具体的な数値は、発表時の状況に対応できるよう空白とされた。

野党共闘で安保法反対 2・21街頭から訴える:東京 - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201602/CK2016021902000161.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1045-29/www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201602/CK2016021902000161.html

■オール大田実行委員会■
◆5党の国会議員も参加 蒲田駅西口でアピール
安全保障関連法に反対する大田区内の団体でつくる「戦争法廃止オール大田実行委員会」は21日午後2時から、蒲田駅西口で、夏の参院選野党共闘を呼びかける街頭アピールを行う。野党議員も参加し、安保関連法の廃止に向けての決意を語る。
参院選で安保関連法の廃止を掲げる候補を支援しようと、市民側から野党共闘を呼びかける動きが出ている。アピールは地域から共闘を働き掛けるために企画された。民主、維新、共産、社民、生活の野党5党の国会議員が登壇したり、メッセージを寄せたりする予定。
オール大田は区内にある9条の会などのネットワーク。月1回、蒲田駅前で街頭活動をするなどしている。
◆中高生グループ初企画 西東京〜練馬パレード
「安全保障関連法に子どもから反対の声を上げたい」と、東京や埼玉に住む中高生のグループが21日に西東京市などで「反戦パレード」を行う。グループは「平和を望む市民の会」。昨年7月に発足し、市民の集会やデモの映像をインターネットで発信してきたが、デモを企画したのは初めて。
同日午後1時から同市東町の文理台公園で、アイドルグループ「制服向上委員会」や超党派の議員を招いて集会を開催。あかしあ東緑地(練馬区)まで4.6キロを歩く。問い合わせは同会メールアドレス=heiwa.nozomu.shimin@gmail.com=へ。
安保法反対を訴えてきた高校生らのグループ「T−ns SOWL(ティーンズ・ソウル)」が呼び掛けた「全国一斉高校生デモ」に賛同した。当日は全国でデモが開かれる見込み。

福島描いたドイツ作品が受賞 ベルリン国際映画祭 - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016021901002302.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1044-30/www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016021901002302.html

【ベルリン共同】第66回ベルリン国際映画祭で19日、東日本大震災後の福島を舞台にした映画で女優の桃井かおりさんが出演した「フクシマ・モナムール」が「ハイナー・カーロウ賞」を受賞した。幅広い作品を集めたパノラマ部門の優れたドイツ映画に贈られる賞。
映画は、ドイツの女性監督ドリス・デリエさんが昨年春に福島県南相馬市で撮影。福島に慰問で訪れた若いドイツ女性と、桃井さん演じる仮設住宅で暮らす年配芸者が、心を通わせていく姿を描く。
ハイナー・カーロウ賞はドイツの著名な映画監督の名を冠した賞。

Fukushima, mon amour
http://www.euronews.com/2016/02/15/fukushima-mon-amour-rising-from-the-ashes-of-a-painful-past/
「フクシマ・モナムール」(動画)
http://www.euronews.com/embed/324288/

発達に課題抱える子どもたち 就労先増やしたい:神奈川 - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201602/CK2016021902000173.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1046-20/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201602/CK2016021902000173.html

発達に課題を抱える子どもたちの働き先を増やそうと、障がい者の就労を支援する民間企業「ダンウェイ」=川崎市中原区=が、ウェブサイトづくりを学べるプログラムを開発した。四月から販売する。同社の永栄(ながえ)和久企画室長は「パソコンを操作しながら文章力も身に付く。職域はウェブサイト制作に限らず、事務系などの仕事にも広がると思う」と話している。 (山本哲正)
学習面の発達で課題のある子や、不登校を経験した子たちなども通う、星槎(せいさ)学園中高等部北斗校(横浜市緑区)の活動発表会が九日、川崎市内で開かれ、高校生約二十人がダンウェイのプログラムでサイトづくりを学んだ成果を紹介した。
ステージ上のスクリーンに、作ってみたサイトの画面を映し出した。横浜市川崎市の港の夜景や鉄道の写真が配置され、生徒たちは「隠れた名所を紹介したくて作った」と説明。
また、「黒は落ち着いた色」と、配色を学んだことを生かし「見やすいように写真の背景を黒にした」と解説した。
十二回計三十六時間の授業を振り返り、「写真のコピー(複写)&ペースト(貼り付け)が楽しかった。将来はパソコンを使う仕事をしたい」と抱負を語る生徒も。
同校は、進路希望別の実習を重視し、高校普通科の卒業資格も得られる。今回のダンウェイの実証授業にも協力。これについては川崎市も、福祉分野の課題を解決する事業として、資金を支援した。
この教育プログラムで使うのは、ダンウェイが二〇一二年、半導体大手のインテルと開発したウェブサイト制作ソフト「ICT治具(じぐ)」。知的障がい者でも、作業しやすいのが特徴だ。
昨年九月からの実証授業では、「情報発信するテーマの決め方など表現の基本」「寒色、暖色などデザインの基礎知識習得」「サイト作りの実習」と、段階を踏んできたという。永栄企画室長は「悩む生徒には、まずサイトに写真を貼り付け、そこに写真の説明文を付ける手順をアドバイスした」。
北斗校の渡辺保子校長は「スマートフォンやパソコンは使っても、関連の仕事ができるほどの教育はこれまで弱かった。サイトを作ることができる力がつき、就く職域が広がる」と期待する。
今回の教育プログラムは四月から、特別支援教育の学校現場などに向けて販売する。問い合わせはダンウェイ=電044(740)8837=へ。

(筆洗)津島さんがのこした作品を読めば、そんな井戸をのぞけるはずだ - 東京新聞(2016年2月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016022002000183.html
http://megalodon.jp/2016-0220-1034-07/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016022002000183.html

作家の津島佑子さんは、いまどきの東京では珍しい井戸のある家に住んでいたという。母の美知子さんが井戸に執着し続けたからだ。
井戸さえあれば、土の底から湧き出る水が、失った時間を取り戻してくれる。そこで母は、亡き人々の声に耳を傾けていたのではないか。そんな想像をしつつ、津島さんは時折、井戸の水に手を浸していたという(書簡集『山のある家 井戸のある家』)
津島さんには、十五歳で逝ったダウン症の兄がいた。言葉を十分に操れなかった兄といるとき、「世界は魔法に充ち満ちているように」感じられたという。
言葉や時間、場所の感覚に縛られないからこそ見える世界を示してくれた兄。家族の中では、暗くて重い「秘密」だった父・太宰治。早くに逝ってしまった息子…。津島さんにとって井戸は、生と死に思いをはせ、言葉をくみ出すための特別な場所だったのだろう。
小説の象徴的な舞台装置として井戸を繰り返し使った村上春樹さんは「井戸が示しているのは、たとえとても深い穴の中に落ちてしまったとしても、全力を振り絞って臨めば堅い壁を通り抜け、再び光のもとに帰れるということ」と語っている。小説を書くこと自体、「井戸」を掘り進んで壁を越え、ほかの人とつながることだと。
おととい六十八歳で逝った津島さんがのこした作品を読めば、そんな井戸をのぞけるはずだ。

山のある家 井戸のある家 東京ソウル往復書簡

山のある家 井戸のある家 東京ソウル往復書簡