(筆洗) 母は息子が一年前から使っているはずのノートをひろげた。まっ… - 東京新聞(2021年7月30日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/120440

母は息子が一年前から使っているはずのノートをひろげた。まっさらだ。先生にちょっとは宿題も出してほしいと言うと反論された。毎日出しています、益川君だけがやってこないと。「だって、遊びのほうが面白いではないですか」。名古屋市での少年時代を理論物理学益川敏英さんが、人懐こい笑顔で振り返っていたのを覚えている。
苦手なことやきらいなことのある人だったようだ。特に英語。ノーベル賞の記念講演の大半を日本語で通していたのは記憶に残る。好きな学問に対しては熱かった。高校時代に物理学者の坂田昌一氏の理論を知り、魅了されると、そこから猛勉強を始めている。
難解な理論でノーベル物理学賞を受賞してからも、わが道を行く「益川君」や「益川青年」の面影が、どこかに残っていた方ではなかっただろうか。昨日、訃報が届いた。八十一歳だった。
ノーベル賞にいたる有名な入浴のエピソードも、学者のイメージから、少し外れている益川さんらしい。理論がうまくいかないという論文を書こうと風呂の中で考え、立ち上がったところでうまくいくアイデアがひらめいたという挿話である。
空襲を経験している。目の前に落ちた焼夷弾(しょういだん)が不発でなければ、ノーベル賞もない。反戦の学者だった坂田氏のように、平和への訴えも熱かった。
日本の未来を憂えた人が去った。寂しく残念な別れだ。

 

<金口木舌>地域の慰霊碑 - 琉球新報(2021年7月30日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1364817.html

多くの遺体が横たわる糸満市摩文仁を逃げた。自決用に手りゅう弾を持っていたが「故郷に帰りたい」と生き抜いた。防衛隊に動員された宜野湾市喜友名の當山誠篤さん(93)の沖縄戦体験だ

▼喜友名出身の戦没者を刻銘した「友魂の塔」が今年、建て替えられた。ひび割れが生じるなど老朽化が進んでいた。遺族の希望で追加刻銘があり、192人の名前が刻まれた塔の前で6月に慰霊祭があった。當山さんも夫婦で参加した
▼建て替えの背景には戦争体験者の高齢化もある。慰霊の日に糸満市の平和の礎まで足を伸ばす体験者が減っているという。高齢者にとって炎天下、バスなどでの長距離移動は負担が大きい
▼同じ理由で慰霊碑の建設を読谷村に要望したのは同村の牧原自治会だ。牧原集落があった土地は終戦直後、米軍に接収されて現在も嘉手納基地内にある。出身者は周辺の集落で暮らしており、慰霊碑もない
自治会は今年、牧原公民館で初めて慰霊祭を開いた。與古田松吉会長は「戦争も米軍基地の問題も国が引き起こしている。地域だけの話ではない。体験者が生きているうちに慰霊碑を造ってほしい」と訴える
▼鉄の暴風、「集団自決」(強制集団死)、飢餓、マラリア沖縄戦体験は地域により違う。地域の慰霊碑や慰霊祭は、歴史の教訓を身近な場所で次世代へ引き継ぐ重い役割を負っている。

 

【政界地獄耳】五輪の裏では総裁選めぐる駆け引き - 日刊スポーツ(2021年7月29日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202107290000097.html

東京五輪の最中、永田町の自民党幹部たちは五輪後の動きで主導権をとるためにうごめき始めた。27日、首相・菅義偉は五輪中止の選択肢はないかの問いに「人流も減っていますし、そこはありません」「重症化リスクを7割減らす新たな治療薬を政府で確保しており、これから徹底して使用していく」と7月に薬事承認された「抗体カクテル療法」に期待を寄せた。また首相は26日発行の月刊誌で、衆院選の獲得目標について「私は欲張りだから、とだけ申しておく」と述べ自らが指揮して選挙に臨むことが既成事実化することを加速させる発言をしている。

★すると同日、水戸で開かれた自民、公明両党合同の集会で公明党幹事長・石井啓一は同日の東京都のコロナウイルス感染者数が過去最多の2848人に上ったことについて「(潜伏期間を含めて)2週間前の状態が反映しているわけであり、東京オリンピックが開会したからこうなったわけでは決してない」と首相を擁護した。しかしながら28日には東京の感染者は3000人を超え、首相が頼るワクチンも停滞気味。コロナの手詰まり感は否めないどころか、世界中から国民の命の安全より五輪強硬かと思われても仕方がない状態だ。

★一方、原爆投下直後に降った「黒い雨」による健康被害をめぐる訴訟で、法務、厚生労働両省の「上告やむなし」の声を押し切り首相は上告断念を表明した。背景には広島での選挙が「09年の政権交代の時ぐらいアゲンスト」と自民、公明両党が悲鳴を上げているからだとの解説が政界では定着している。つまり首相の再選戦略は思惑通りには運んでいない。自民党は来週にも総裁選挙管理委員会を発足させるが、総裁選を衆院選後にして無投票再選を果たしたい首相に対して総裁選挙前倒し論が高まりつつある。五輪での選手活躍の裏では、激しい駆け引きが続く。(K)※敬称略