<金口木舌>五輪と女性 - 琉球新報(2021年7月29日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1364005.html

身長203センチの八村塁選手と、153センチの須崎優衣選手。身長差50センチの2人が、五輪開会式の旗手を務めた。今回、初めて国際オリンピック委員会が男女平等の観点から、新ルールとして男女ペアで旗手を務めるよう各国に呼び掛けた。全体の89%が男女で入場したという

▼1896年に第1回大会がギリシャで開催された時、男性しか出場できなかった。パリで開かれた第2回大会から女性にも門戸が開かれた。あれから約120年。本大会の女性出場者の割合は過去最多の48・8%を占める
▼女性選手の言動にも注目が集まる。日本対英国戦の女子サッカーの試合前に、両国の選手らが片足で膝を付く姿が見られた。人種差別への反対を表明した
▼ドイツの体操の女子選手は、多くの選手が着用するレオタードではなく、足首まで覆われた「ユニタード」で試合に臨んだ。体操競技を性的な対象として見ることへの抗議を示した
▼近年、スポーツ界では女性選手が性的な印象を与える画像や動画を勝手に撮影され、拡散される被害が相次いでいる。体操選手の一人は「不快を感じずに、違う衣装でどうすれば美しく見せられるかを示したかった」という
▼五輪が掲げる「ジェンダー平等」「多様性の推進」「人権の尊重」について、日本はどうなのか。メダル争いだけではない、社会へ提言する姿勢に学ぶ意義は大きい。

 

(筆洗) 一九四五年八月六日、出張先の広島で被爆し、三日後の九日には… - 東京新聞(2021年7月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/119854

一九四五年八月六日、出張先の広島で被爆し、三日後の九日には帰郷した先の長崎で再び、被爆した山口彊(つとむ)さんにこんな短歌がある。

<黒き雨また降るなかれにんげんがしあわせ祈るための蒼穹(あおぞら)>

原爆投下後に降る放射性物質を含む黒い雨。今は「蒼穹」だが、黒い雨なぞ二度と見たくない−。過去の痛みと未来への祈りがこもる。
一方、同じ黒い雨に遭ったその人たちの頭上にはそんな「蒼穹」は今まで広がっていなかったのだろう。黒い雨の後にも別の冷たい雨が降っていた。「黒い雨」をめぐる集団訴訟菅首相は原告全員に被爆者健康手帳を与えるとした広島高裁判決について上告を断念する考えを表明した。原告の全面勝訴が確定する。やっとその雨も上がるか。
原告は黒い雨を受けながら国の定めた降雨区域ではないと線引きされて被爆者として認められなかった人々である。同じ黒い雨にも被爆者と同じ援護の傘に入ることを許されず無情の雨に打たれていた。「なぜ」という気持ちを抱えながら震えていたはずだ。
首相の政治判断による上告断念という。ひとまずは多とするが、もう少し早く決断できなかったか。「蒼穹」を感じることなく亡くなった命を思う。
原告と同じ区域の生存者は約一万三千人。幅広く速やかな救済を願う。まず考えるべきは新たな線引きではなく、雨にぬれた人へのいたわりであろう。