<記者だより>人間の尊厳:神奈川 - 東京新聞(2021年12月5日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/146829

ホームレスの自立を助ける小田原市の民間団体「小田原交流パトロール」の近藤孫範さん(74)らの夜間巡回に同行した。草むらの中の小屋や橋の下で暮らす人に「困ったことはない?」と声を掛けていく。相手の尊厳を傷つけず、優しく接する姿に感銘を受けた。
家族代わりに臨終に立ち会うこともある。公園で二十数年野宿した肺気腫の男性は最期の三カ月間、生活保護を受けアパートに入居。近藤さんや看護師にみとられ、安らかな死に顔だったという。健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を定めた憲法の崇高な精神も、こうした草の根の活動で命脈をつないでいる。
近藤さんの話では、入水自殺を図る人もいる。過去数人に遭遇し、東日本大震災後は東北出身者が多い。思いとどまり警備員に就職した男性もいるが、自死を防げなかった時もある。近藤さんは「行政の相談窓口はあっても、窓口にたどりつけない人が大勢いる」と話す。来庁を待つだけでなく、届かない声を市井へ拾いに行く。自治体に求めるのは酷かもしれないが、おせっかいな行政はきっと慕われる。(西岡聖雄)