(ぎろんの森) 平和賞と報道の役割 - 東京新聞(2021年10月16日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/137082

先週、岸田文雄首相の所信表明演説に加え、首都圏の大きな地震に関する社説を掲載したため本欄は休みました。二週間ぶりの掲載です。
先週金曜日はもう一つ大きなニュースがありました。ノーベル平和賞が二人のジャーナリストに贈られることが決まった。
ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」編集長のドミトリー・ムラトフ氏と、フィリピンのニュースサイト「ラップラー」を共同開設するマリア・レッサ氏です。
プーチン政権やドゥテルテ政権の闇を暴く報道を続け、ムラトフ氏の新聞では記者や職員計六人が暗殺、レッサ氏も二度逮捕されています。まさに命懸けです。権力の弾圧に屈することのない報道姿勢は称賛に値します。平和賞の授与も当然です。
世界を見渡せば両国に限らず、報道への圧力が強まり、表現の自由や国民の「知る権利」が脅かされています。平和賞の授与は、そうした現状への警鐘なのでしょう。
私たちの国は今、記者が報道によって暗殺されたり、投獄されたりするような深刻な状況ではありません。
しかし、権力はメディアを選別したり、記者の質問機会を制限したりしています。放置すれば、権力はいずれ牙をむくかもしれません。
身内の話で恐縮ですが、本紙が掲載した「愛知県知事リコール署名大量偽造事件のスクープと一連の報道」=写真=が新聞協会賞を受賞しました。西日本新聞社への情報提供を基に、本紙などを発行する中日新聞社が取材、報道したものです。
知事リコール署名の偽造は民主主義を脅かす、許されない行為です。私たちの報道が民主主義を守る一助になったとしたら幸いです。
首相が交代し、衆院選が三十一日に行われます。この国が間違った方向に進まないよう、日々の報道を通じて権力を監視し続けなければなりません。ノーベル平和賞や新聞協会賞は、私たちに新聞の役割をあらためて思い起こさせてくれました。 (と)