<金口木舌>最近の戦争もののトレンドとは? - 琉球新報(2019年12月26日)

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年末になりいろいろ回顧ものが並ぶ。今年読んだ本を個人的に回顧していると、2019新書大賞に選ばれた吉田裕著「日本軍兵士」(中公新書)に行き当たった

中央公論新社主催で、書店員や各社新書編集部、新聞記者らの投票で決める。日中戦争から第2次世界大戦まで、苛烈で悲惨な「戦争の現実」を戦場の末端兵士の目線で描いた
▼戦闘ではなくマラリアや栄養失調などによる戦病死者の多いことや、心の病に冒される兵士、無謀な作戦を遂行させる軍のシステムなどを実証する。資料の焼失のためか沖縄戦の記述がほとんどないのは残念
▼吉田さんは本の中で「日本軍礼賛本」の出現に触れている。受賞者インタビューでも「自国を讃(たた)える自己愛的な書籍が増えている。現実から目を背け、見たいものしか見ていない。日本軍を過大評価し、美化した結果、歴史認識までゆがんでいるものも少なくない」と強く危機感を表明した
沖縄戦ひめゆり学徒隊をテーマに朗読劇を書いた演出家の冨士川正美さんは、芝居の世界でも戦争賛美や特攻隊礼賛といったものが最近増えていると話す。だからこそ「声なき声」を表現したいと語る
▼来年は日本が敗戦してから75年の節目となる。戦争の記憶の希薄化に懸念も繰り返される中、目を背けたくなるようなものも直視しながら、何をどう伝えるべきか、年の瀬に考える。

 

 

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)