<金口木舌>キーンさんが抱いた疑問 - 琉球新報(2019年2月27日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-881130.html
https://megalodon.jp/2019-0227-1038-12/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-881130.html

時流に背を向けた永井荷風は「あたかも好し」と記した。日本文学報国会に身を置いた高見順は「遂に敗けたのだ。戦いに破れたのだ」と嘆いた。日本現代文学史に名を残す両作家の1945年8月15日の日記である

▼戦時下の日記を研究したドナルド・キーンさんは「日本の歴史の重要な時期における日本人の喜びと悲しみを暗に語っていると信じている」と著書に記した。日記を通じて戦中戦後の精神史と向き合った
▼戦争で沖縄を深く知る。45年4月、米海軍情報将校として読谷に上陸した。2012年、那覇での講演で「私の人生にとって沖縄は大切だった」と振り返っている。その出合いが幸福だったとは言えない
▼異国の兵士におびえる県民を見つめた。捕虜の尋問を通じて日本兵の心情に触れた。「無意味に大勢の人が死んだ。生涯忘れられない」と語っていた。日本文学研究者は終生戦争を見つめた
▼12年に「平和の礎」を訪ね、戦場で見た死体よりも「戦争の恐ろしさを何より感じた」という印象的な言葉を残した。読谷の浜辺に立ち「戦争はもう終わったはずだ。米軍にも言い分はあるだろうが、なぜ沖縄に米軍が必要なのか分からない」と疑問を投げ掛けた
▼24日に逝ったキーンさんの疑問に答えることができるのは、県民投票で民意を示した私たちであろう。沖縄の民意を無視する日米両政府にその力はない。