国際学力調査 読解力育む土壌豊かに - 東京新聞(2019年12月4日)

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世界の十五歳が参加した学習到達度調査(PISA)で、日本の読解力は低下傾向であることが分かった。子どもたちの読書経験を豊かにすることを後押しするなど、腰を据えて取り組みたい。
調査は経済協力開発機構OECD)が実施し、七十九カ国・地域の六十万人が参加。二〇一五年の前回調査に比べ、読解力の平均得点は十二点下がり、順位は八位から十五位に後退した。
読解力調査の「ラパヌイ島」と題する設問が公表されている。
ラパヌイ島(イースター島)で調査をしている教授はブログで、モアイ像が作られた当時にはあった大木が現在は生えていないことに疑問を示す。木の乱伐が原因とするジャレド・ダイアモンド氏の著書「文明崩壊」の書評、ネズミが種を食べたためとする科学者の反論を紹介する記事があわせて示される。生徒たちはそれら三つの文章を読み、大木が消滅した理由を根拠を挙げて説明することを求められる。
自らの可能性を広げ、社会に参加するために文章を理解して熟考し、考えを表現する力。それがOECDが提示する読解力だ。
三年ごとの調査結果は教育政策に大きな影響を及ぼしてきた。ゆとり教育転換の一つの契機は、読解力などが低下傾向にあったことだ。〇七年に再開された全国学力テストの出題はPISAを強く意識したものとなっている。
二二年度から本格実施される高校の新学習指導要領では国語を「論理国語」「文学国語」などに再編する。文学が片隅に追いやられるのではないかと文学界などから懸念の声が上がっている。
調査では読書についても尋ねており、興味深い分析結果が出ている。雑誌以外では「読む」グループの方が「読まない」グループよりも得点が高く、最も得点差が大きいのは小説や物語などのフィクションだった。次いで新聞、漫画となっている。「論理的」と仕分けされた文章だけが、読解力を育むとは限らないことを示唆しているのではないか。
読解力は、多様な養分を吸収してゆっくり育つ木のような力なのだろう。読解力育成のため、社会や理科など国語以外の教科でも、文章のまとまりなどを意識した授業改革に取り組み始めた学校もある。調査の順位のためというよりは、子どもたちの未来を広げるために、学校や社会が豊かな養分を含んだ土壌でありたい。