(筆洗) 渡さなければ「のけ者」にされる不安、恐怖。親のお金に手をつける後ろめたさやそれが浪費される情けなさ - 東京新聞(2019年12月4日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019120402000141.html
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『悼む人』『永遠の仔(こ)』などの作家、天童荒太さんは子どものころ、お誕生会に呼ばれるのが苦痛だったそうだ。家が貧しく、人に贈り物を買うだけのおこづかいがなかった。
招待されても近所の商店に隠れて、やり過ごしていたが、あるとき、お誕生会を開く友人に見つけられ「どんな安いものでもいいんだ」とねだられる。結局、全財産をはたいてプラモデルを買わされるが、お誕生会の間、ずっと後悔していたそうだ。「どうしてもっとうまく隠れなかったのか」
「贈り物なんかいらないから来てよ」と言うのが友だちってもんでしょうと誕生日の子を叱りたくなるが、これに比べればまだかわいい方かもしれぬ。名古屋市の小学校でのいじめである。五年生の男の子が同級生六人から「お金ちょうだい」「持ってこないとのけ者にする」と言われ、自宅から現金計約十万~二十万円を持ち出していた。
ゲーム代などに消えていたそうだ。この子の胸の内を想像して泣きたくなる。渡さなければ「のけ者」にされる不安、恐怖。親のお金に手をつける後ろめたさやそれが浪費される情けなさもあっただろう。
貯金箱にあったお金と聞く。五百円貯金といえば家族での食事など何か楽しい目標もあったかもしれぬ。貯金箱に伸ばした手が悲しい。
お金には手に入れた人の苦労という刻印が入っている。子どもたちによく教えたい。