萩生田氏の「交代」発言 議長は政権の道具なのか - 毎日新聞(2019年7月31日)

https://mainichi.jp/articles/20190731/ddm/005/070/035000c
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自民党萩生田光一幹事長代行が憲法改正論議に絡めて大島理森衆院議長の交代に言及した。
萩生田氏によれば、大島氏は「調整型」の議長だから、野党に気を使い過ぎて、国会の憲法論議が進まなかったのだという。そのため議長を交代させて「憲法改正シフト」を敷こうとの主張だ。
萩生田氏は議長の役割を一体どう理解しているのか。国権の最高機関として国民の利害を調整し、行政を監視するのが国会だ。議長はその機能を十全に働かせる責任を負う。
与党側に立って改憲の旗を振らないなら交代させようというのは、議長を政権の道具に使う発想だ。
萩生田氏は安倍晋三首相の側近として知られるが、同時に衆院の一員として議長の権威を守るべき立場にあるはずだ。しかも、大島氏を議長に推挙した自民党の幹部でもある。
衆院任期の途中で異例の議長交代を唱えるのであれば、与野党の納得を得られる理由が必要となる。しかし、自民党内でそのような議論がなされた節はない。
萩生田氏が首相側近であることをかさに着て、個人的な意見として軽々に交代を口にするのは不見識だ。
「安倍1強」の長期政権下、首相官邸の力が高まるにつれて国会の空洞化が指摘されるようになった。
官邸側が天皇退位特例法の検討作業を政府の有識者会議で進めようとしたのに対し、大島氏は「国会は下請けではない」と言って議論を引き取り、与野党合意に導いた。
森友問題をめぐる公文書改ざんの真相究明を果たせなかった昨年の通常国会閉会時には、行政府と立法府の双方に「自省」を求めた。
三権分立を全うするため政府に物申すのは議長として当然の仕事だ。それに対する不満が首相周辺に募り、萩生田氏の議長交代発言につながった側面もあるのではないか。
そもそも国会の憲法論議が進まないのは、首相側の強引な姿勢が野党を硬化させてきたからだ。
参院選改憲勢力が3分の2を割り、野党に協力を呼びかける丁寧な姿勢に転換するのかと思いきや、萩生田氏のこの発言である。
野党は反発を強めている。国会の憲法論議にブレーキをかけているのが議長でないことは明らかだ。