国会きょう閉会 「言論の府」たり得たか - 東京新聞(2019年6月26日)

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通常国会がきょう閉会する。内政・外交にわたり課題は山積だが、議論はとても十分とは言えない。「言論の府」たり得たか、各議員の自省が必要だ。
一月二十八日に召集された通常国会はきょう、百五十日間の会期を終えて閉会する。
二〇一九年度予算は三月に成立し、四月の統一地方選後は、国会で激しい舌戦が展開されることがほとんどなかった。
政府が与野党対決法案の提出を控えるなど、法案を絞り込んだことも要因だ。安倍晋三首相の内閣とそれを支える与党としては、七月に予定される参院選をにらみ、野党に付け入る隙を与えない「安全運転」に徹したのだろう。

◆「安全運転」徹する与党
一時取り沙汰された衆院解散による衆参同日選挙は見送られ、与野党攻防の舞台は、七月の参院選に移る。選挙戦を通じて、有権者の選択に資する建設的な政策論争を政党間、候補者間で展開すべきは当然である。
同時に、この通常国会が、憲法で国権の最高機関、唯一の立法機関と定められた「言論の府」にふさわしい場であったのか、あらためて検証する必要がある。
振り返るとこの国会は、統計不正問題で幕を開けた。
厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査問題が発端だが、発覚を機に調べ直したところ、政府の五十六基幹統計のうち二十三で不適切な処理が発覚した。
政府の統計は政策立案、遂行の基礎となる資料だ。誤りがあれば政策の間違いを犯しかねない。
なぜ、そのような不正が起きたのか、どうしたら再発を防げるのか。政府任せにせず、原因を徹底的に究明し、具体的な再発防止策を議論するのは、国政の調査や行政監視の機能を託された国会の役目のはずだ。

◆政府の不正切り込まず
しかし、国会がその期待に応えたとは言い難い。その責任は主として与党側にある。
野党側の要求を受け、衆院予算委員会は二月、厚労省の統計担当者を参考人として招致したが、与党側は当初、招致を拒み、委員会では参考人に質問しなかった。
その後も、国会として原因の解明と再発防止策の検討に努めたとは言い難く、厚労省自身による再調査結果の報告により、政府側の幕引きを許した形となっている。
第一党の党首を首相に選び、与党議員らが内閣を構成する議院内閣制とはいえ、与党はなぜ、国会で徹底的に議論し、政府の不正に切り込もうとしないのか。行政監視は野党のみならず、与党にとっても重要な役割のはずだ。
与党が議論を避ける傾向は、統計不正にとどまらない。
国会論戦の主舞台でもある予算委員会は、一九年度予算が成立した三月以降、衆参両院で開かれていない。異例の事態である。
特に参院では、委員の三分の一以上の要求がある場合には、委員会を開かなければならない、と規則で定められているにもかかわらず、与党は開催を拒んだ。これでは国会の行政監視機能は十分に果たせないのではないか。
国会後半には、政府に実態や方針をただし、議論すべき問題が積み重なった。
例えば外交では、トランプ米大統領が八月の決着に言及した日米貿易交渉や、首相が前提条件を付けずに首脳会談実現を目指すと述べた北朝鮮問題、北方領土を巡る日ロ交渉の現状や首相のイラン訪問である。
内政では国会終盤、老後二千万円が不足するとした金融庁の審議会報告書をきっかけに年金を巡る不安や疑問が一気に広がった。
参院選への影響を避けたい安倍内閣は、麻生太郎財務相が報告書の受け取りを拒むという奇策で、国会での議論封じを図った。
将来の年金支給額の指針となる五年ごとの「年金の財政検証」はこれまで遅くとも六月までに提出されていたが、国会での追及を避けるためだろうか、今年はいまだに提出されていない。
このような政府の不誠実な態度は、与野党を問わず、国会として許すべきではない。言論の府である国会が議論を十分にしようとせず、閉会するとは何事か。

◆民主主義再生のために
国会議員は国民に代わって政府に質問し、国政を調査、監視するのが仕事のはずなのに、その機会を放棄しては国民代表としての役割を果たしているとは言い難い。
そればかりか、国会が機能しなければ権力は腐敗し、悪政がはびこりかねない。日本の民主主義が瀬戸際に立つという危機意識が、今の国会議員にあるのだろうか。
国会はもはや、私たち国民が看過できる状況ではなくなった。その危機意識を持ち、私たちと共有できる議員を、参院選では選びたい。民主主義を再生するために。