木村草太の憲法の新手(103)首相の「辺野古」答弁 自身の無意識と向き合って - 沖縄タイムス(2019年5月5日)

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4月21日に行われた衆議院議員沖縄3区補欠選挙では、「オール沖縄」勢力が推すフリージャーナリストの屋良朝博氏が、自民党公認で元沖縄北方担当相の島尻安伊子氏を破り当選した。屋良氏が辺野古埋め立て反対を訴える一方、島尻氏は辺野古移設容認を明言した。今回の選挙結果について、昨年の県知事選、2月の県民投票に続き、沖縄県民の辺野古移設反対の民意が改めて示されたものと評価する声も多い。
では、こうした沖縄県の民意を、政府はどのように受け止めるべきか。この点について、3月5日、参議院予算委員会で興味深いやりとりがあった。長くなるが重要な内容なので、紹介したい。
この委員会で、共産党小池晃議員が、辺野古新基地の是非を問う県民投票について安倍晋三首相に対し、「この投票結果が示している民意は、辺野古新基地建設には反対ということですね」と質問した。これに対し首相は、「政府として評価を加えるようなことは差し控えたい」と答えた。
小池議員が改めて、「これが辺野古反対の民意だということを認めないんですか」と問うと、首相は、「結果については」「真摯(しんし)に受け止め、基地負担の軽減に全力を尽くしていきたいと、こう考えておりますが、県民投票の結果について政府として評価を加えるようなことは差し控えたい」と述べた。
小池議員は「この県民投票が示した民意は辺野古反対じゃないですか」と畳みかけるが、首相は、結果を「真摯に受け止めているわけでありますが、その結果について評価を加えることは差し控えたい」と述べる。
さらに小池議員は、「真摯に受け止める結果とは何ですか」と詰めるが、首相は「米軍基地が集中をしている」「ことに対するこの県民の気持ち」は「しっかりと受け止めていきたい」が、「県民投票の結果については政府としては評価を加えることは差し控えたい」とする。
最後に、小池議員は、「沖縄の民意は、辺野古の新基地建設反対というのは沖縄の民意だ、イエスかノーか」と問うが、首相は「結果についての政府として評価を加えることは差し控えたい」と言い続けた。
首相の答弁は、どこまで行っても小池議員の質問に対する答えになっていない。首相が何度も言葉に詰まっていることからすると、首相自身が何を言っているか分からなくなっている印象を受ける。
なぜ、こんな答弁になったのか。政府は、辺野古新基地建設を粛々と進める方針を維持している。もしも、沖縄の民意を無視してよいと思っているなら、首相は「辺野古反対が沖縄の民意だが、それは無視する」と答えたはずだ。
そうは言わずに、しどろもどろの回答を繰り返したということは、安倍首相の不誠実さを示すと同時に、首相自身が、無意識的にではあれ、「民意を無視して工事を進めるのは問題だ」と考えているようにみえる。
政府として、選挙結果の評価を示そうと示さなそうと、辺野古反対の民意は一貫して明らかだ。そして、地元の民意を無視して工事を強行すべきではないというのは、極めて健全な感覚だろう。だとすれば、首相は、もっと素直に、自身の無意識と向き合ってみるべきではないか。(首都大学東京教授、憲法学者