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世界に例のない水深90メートルの軟弱地盤改良工事も可能だ。ジュゴンの死骸が見つかっても工事によるジュゴンへの影響はない。米軍普天間飛行場の返還8条件も県は知っていたのだから問題はない―。
名護市辺野古の新基地建設に伴う、県が埋め立て承認を撤回したことに防衛省沖縄防衛局が不服審査を申し立てていた件で、国土交通相は撤回は違法だとして取り消した。防衛局側の訴えを全て認めた裁決だ。
訴えたのも国、裁決を出すのも国という、投手と球審が同じ状態なのだから、全てが国の思い通りの「ストライク」となるのは当然だ。
今回の裁決では軟弱地盤工事の実現可能性は専門家1人の鑑定で妥当だとした。ジュゴンの保護にも目をつぶった。工事ありきであまりにも拙速ではないか。
地方自治体の行為を、同じ内閣内の手続きによって取り消したことも問題だ。地方自治法の「国と地方自治体は対等協力の関係」という理念をも損なう前例が生まれた。地方の決定を国が抑え込むという構図は、単に沖縄県対国だけの問題ではなく、地方対国という、この国のありようにもつながる。
さらに、普天間飛行場の返還にかかる8条件を国交相が「県も認識した上で承認した」とした。確かに2013年に日米で合意された「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」には、普天間の返還条件として「普天間代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善」など8項目が盛り込まれた。
しかし8項目が普天間返還のハードルだと認識されたのは17年に稲田朋美防衛相(当時)が国会で、辺野古新基地が建設されても8条件が満たされなければ普天間は返還されないと明言したからだ。県は政府から8条件に関する説明は「一切ない」と言うが、国は今裁決で正当化した。
裁決により、仲井真弘多元知事が出した辺野古の埋め立て承認の効力が復活する。裁決前はあくまでも埋め立て承認は翁長雄志前知事により撤回され、撤回を執行停止している状態だったからだ。承認の効力復活で、防衛局はいずれはしなければならない軟弱地盤の改良に伴う埋め立て工事の設計変更手続きを進めるだろう。
辺野古新基地建設については常に重要な事項が後出しだ。軟弱地盤の問題も16年には報告書が出ていた。ジュゴンについても昨年7月時点の「行動範囲に変更が生じているとは認められない」との判断で押し切った。8条件についても説明はない。
辺野古埋め立てはいまだ費用も期間も明示できないほどむちゃな計画だ。国が設計変更を申請しても工事が進められるかは疑問だ。それよりも新基地建設を断念することこそ取るべき選択だ。