教科書の進化 「格差」を縮める道具に - 朝日新聞(2019年3月28日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13953258.html
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親の世代が手にしたら時代の変化を実感するだろう。来年4月から小学校で使われる、新しい教科書のことだ。
検定に合格した本の9割にQRコードなどが付いている。スマホなどの端末をかざすと教科書会社のサイトにつながり、用意された動画教材などを視聴できる。教室だけでなく、家庭での学習にも役に立つ。
この新技術は「教科書にできること」を大きく広げた。
実験の手順や道具の使い方が一目でわかる。5年生から正式教科になる英語の発音やアクセントも、繰り返し確認できる。月の満ち欠けのような現象は、図よりも動画で学ぶほうが理解しやすい。目や耳に障害のある児童の支えにもなるはずだ。
文化や自然にふれる機会の不足も補える。家庭の経済状態が厳しいと、博物館などに行ったり遠出したりするのは難しくなりがちだが、こうした教科書ならば、疑似体験とはいえ知見を深められるだろう。
一方で、自宅に端末がない子のことを心配する声もあり、配慮は必要だ。大切な教材は授業中に必ず見せるようにする。学校やまちの図書館に端末を用意し、自由にアクセスできるようにする。そんな対策を学校や教育委員会に求めたい。
新指導要領では、高学年を中心にプログラミングも扱う。
重点は技術の習得よりも考える力を鍛えることにある。ある教科書は、1辺4センチの正方形をロボットに描かせるにはどうするかを問い、「4センチ直進」「90度左折」の指示を重ねることを教えたうえで、次の課題を示す。必要なのは、筋道を立てて考え、正確に伝える力だと気づかせる工夫だ。
技術はいずれ古くなっても、論理的な思考は一生役に立つ。国語の説明文などの理解力向上にも通じるとの認識をもって、指導にあたってほしい。
「ゆとり」批判に懲りて、教科書は検定のたびに厚くなってきた。今回もページ数は平均10%増えた。教員の世代交代を受け、経験が浅くても教えやすいように、授業のヒントを豊富に盛り込んだのも一因だ。
だがお膳立てが過ぎると、子どもは自分で考えなくなる。先生は先生で、全部をこなそうとすれば表面をなでるだけの授業になり、指導要領が掲げる「主体的で深い」学びから遠くなるという矛盾に陥ってしまう。
質と量の二兎(にと)を追うには限界がある。新たな教科書の可能性を確かめながら、求める学習量が適切かを見きわめ、是正を図ることも必要ではないか。