道徳「愛国心」など自己評価 専門家から疑問の声も - 朝日新聞(2018年3月28日)

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来春から「特別の教科」となる中学校道徳の教科書検定で、8社の教科書が合格した。生徒が「思いやり」や「愛国心」などの項目を、数値や記号を使って自己評価する欄を掲載した教科書もあり、専門家から疑問の声が出ている。
8社中5社は巻末などに、生徒が数値や記号で「自己評価」する欄を設けた。広済堂あかつきは「自分自身を振り返って」と題して、学習指導要領が求める「節度、節制」や「国を愛する態度」といった22項目について、5段階で自己評価する内容。日本教科書も「身につけたい22の心」を4レベルで自己評価する一覧表を載せた。
教育出版は22項目と、その内容を紹介した教材名と並べて「心かがやき度」を星1〜3個で示す手法。東京書籍と日本文教出版は項目別ではないが、A〜Dや丸をつけて生徒が振り返る欄を作った。
道徳の教科化に伴って生徒は教員から評価を受けるが、数値評価ではなく、記述式。中身も「内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえて」(文科省)になる。日本教科書の監修をした白木みどり・金沢工業大教授(道徳教育)は自己評価の欄の目的について「あくまでも生徒自身のためで、先生が見るためではない」と話す。ただ、「先生が生徒を見取る際の手がかりにして欲しい」(広済堂あかつき)「教員には不安も多い。評価の一助になれば」(東京書籍)と話す教科書会社もある。
自己評価欄に検定意見はつかなかったが、文科省はこの内容を教員が活用することには否定的だ。「対話や授業の様子から見取るのが基本であり、教員が評価の参考にすることは想定していない」という。
道徳教育を研究する子安潤・中部大教授は「『愛国心』など外から与えられた枠組みで自己評価をさせると、子どもの考え方を縛ることになりかねない」と懸念する。数値での自己評価欄を入れなかった教科書会社の編集者も「数値評価なんてあり得ない。数値からは生徒の具体的な考えは見えてこない」と話した。
教科書全体を通じては全社が「いじめ」に力を入れた。「いじり」と「いじめ」の違いなど、生徒に考えてもらおうという教材が目立ち、いじめが「法律では犯罪になることがある」と書いた教科書もあった。スマホも各社が扱い、「歩きスマホ」の危険性や、SNSなどへの書き込みからトラブルになるといった教材を複数社が掲載した。
「いのち」を考える教材では臓器移植が7社で取り上げられ、「なぜ人を殺してはいけないのか」や死刑制度、尊厳死について考える教材も登場した。LGBTなど性的少数者の話題も4社の教科書に載った。
既存の文科省の副読本「私たちの道徳」「中学校道徳読み物資料集」から転用した教材が目立ったのも特徴だ。計29作品をいずれかの社が採用し、全社が「二通の手紙」という題材を掲載した。市営動物園の職員が、入園時刻を過ぎて訪れた幼いきょうだいを入園させたことから始まる物語だ。


日本の紹介文、修正も
教科書検定では、日本に関する記載も修正を求められた。学校図書は日本文化の紹介で「他の国に類を見ない、細やかな言葉遣いがある」という記述が「断定的に過ぎる」とされた。東京書籍も和食に関連して「食べ物に対して感謝の言葉を口にするのは日本人だけです」と書き、同様の意見がついた。両社ともに削除や修正をして対応した。
教育出版は47都道府県から1人ずつ、ゆかりある人の発言を紹介したが、谷崎潤一郎嘉納治五郎ら9人に「典拠に信頼性がない」などの検定意見がついた。同社によると、言葉選びの「入り口」に著名人の名言などをまとめたサイトを利用した後、文献などで根拠を確かめたが、指摘があった人物は確認できず、発言や人物を修正した。
「研究者に問い合わせなどをする必要があった」と同社の担当者は話す。文科省教科書課は「ネット上の情報が直ちにダメだとは言えないが、信頼性のある典拠が必要だ」としている。(土居新平、円山史、峯俊一平)

中学校道徳で学ぶ「22の内容項目」(学習指導要領から)
自主、自律、自由と責任▽節度、節制▽向上心、個性の伸長▽希望と勇気、克己と強い意思▽真理の探求、創造▽思いやり、感謝▽礼儀▽友情、信頼▽相互理解、寛容▽遵法(じゅんぽう)精神、公徳心▽公正、公平、社会正義▽社会参画、公共の精神▽勤労▽家族愛、家庭生活の充実▽よりよい学校生活、集団生活の充実▽郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度▽我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度▽国際理解、国際貢献▽生命の貴さ▽自然愛護▽感動、畏敬(いけい)の念▽よりよく生きる喜び

(土居新平、円山史、峯俊一平)