外国人労働者 どう受け入れるか - 北海道新聞(2019年1月9日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/265209
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在留資格を新設して外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が成立し、4月1日の新制度スタートに向け、政府は受け入れ対象業種や人数といった制度の根幹に関わる議論を進めている。検討が遅れているのは、外国人労働者の子どもに対する教育体制の整備や、労働者への差別・搾取といった人権問題の改善だ。受け入れ後の混乱を避けるためにも、事前の準備が不可欠で、どういった支援や制度づくりが必要なのか、専門家に聞いた。
■人権侵害防ぐ態勢整えて 外国人労働問題に詳しい弁護士・小野寺信勝さん
弁護士の立場から、外国人技能実習生の法的支援に長く携わってきました。低賃金や長時間労働をはじめ、差別・暴力、送り出し機関や仲介業者による中間搾取など、技能実習制度は多くの問題を抱えています。政府が一貫して否定してきた、単純労働者の事実上の受け入れに限って言えば、新しい在留資格の創設は一定の評価はできます。
ただ、課題山積の技能実習制度が新制度の土台として温存されたことで、今後も人権侵害が起き続ける可能性があります。
熊本県弁護士会で2006〜14年、主に九州の事件を担当しましたが、深刻な人権侵害だらけでした。長崎のある監理団体の規定には罰金・罰則があり、実習生が異性と交際したら50万円に加えて来日前に支払った保証金の没収および強制帰国、門限を破ったら1万円、社内でつば・たんを吐いたら5千円と決められていました。熊本では日本人の宿舎費が8千円なのに、実習生は3万5千円という差別がありました。鹿児島のある宿舎は和式トイレの上に木の板を敷き、その上でシャワーを浴びるという劣悪な生活環境でした。
こうした問題を実習生が日本の社会団体や報道機関に訴えてはいけないという規定さえありました。訴えたことが分かった場合、保証金を没収すると記されていました。技能実習制度は民間同士でやりとりするため、被害が表面化しにくい構造的な問題があります。実習生がいる自治体や地域社会がもっと実習生への関与を強め、地域全体で支えていく必要があります。
韓国にはかつて、日本の技能実習制度を参考にした「産業研修生制度」がありましたが、人権侵害や失踪が社会問題化したため、04年に「雇用許可制」という政府主導の新制度を新設し、その後旧制度を廃止しました。雇用許可制は、韓国政府が2国間協定を締結した送り出し国に事務局を置き、韓国政府が主体的に受け入れに関与するため、ブローカーが介入しにくくなっています。受け入れ過程を透明化した韓国の制度は外国人に高く評価されています。日本が今の制度を続けていれば、アジアの人材が来てくれなくなる可能性もあるでしょう。
日本の産業は、地方を中心に、すでに外国人労働者が不可欠な状況になっています。政府はこの現実に正面から向き合い、外国人が「労働者」として必要であることを認め、人権侵害が起きないしっかりとした受け入れ態勢を整えるべきです。
日本に最長10年住む人が、なぜ「移民」ではなく、なぜ家族の帯同が許されないのでしょうか。「移民政策ではない」という政府の主張と「国際貢献」という建前を支えるためだけに技能実習制度を残したことで、悲劇が繰り返される恐れがあります。(経済部 佐々木馨斗)
■子どもの言語教育に力を 東京学芸大国際教育センター教授・吉谷武志さん
本の学校には、言語や宗教など多様な文化的背景を持つ子どもが多く在籍しています。国籍にかかわらず、日本語の理解が十分ではない子どもに適切な教育を提供するのは国として当然です。彼らは将来、日本社会を支える人材となり得ます。小学校から高校まできちんと通い、学べる体制が必要なのです。
日本語教育の中で難しいのは、「話せる」ことと「日本語を理解する」ことは大きく違うのに、その区別が分かりにくいことです。私たちは外国籍の子どもが日本語で会話できるようになると安心してしまいます。問題行動でも起こさない限り、その子への注意が薄れ、「見えない子」になってしまうのです。
言語には「生活言語」と「学習言語」があります。友達と遊びや買い物ができても、日本語を深く理解しているとは限りません。特に国語や社会の授業で使われる日本語は難しい。分析し、以前学んだことと関連付けて理解するには、語彙(ごい)や文法など高い言語能力が必要です。
高学年にもなると、子どもは授業の日本語の意味を理解していないのに、分かっているように振る舞ってしまうことがあります。家庭では子どもよりも日本語が不慣れな両親がおり、上手ではない日本語の中で育っていく。学校の授業以外で正確な日本語を学ぶ機会を持たないまま、成長してしまうのです。
このような子どもが中学や高校に進み、付いていけなくなる例が多く報告されています。文部科学省は「日本語指導が必要な子」について詳しく調査する必要があるでしょう。日本語で会話はできても学習に付いていけない子、家族の中に正しい日本語を話せる人がいない子。家庭環境も含めて調べるのです。
改正入管難民法が施行され、在留期間に上限のない特定技能2号の労働者が増えるのは時間の問題です。本州の工場から道内の工場に外国人労働者が配置転換されれば、その子どもたち複数人が一気に道内の学校に入学することも十分あり得ます。
どのように多様な背景を持つ児童生徒を迎え入れるのか、どういった教育支援を行うのか。まだ外国人労働者が少ない北海道でも、今から検討を始めて早すぎることはありません。北海道を勤務場所として選んでもらうためにも、外国籍の子どもの教育に力を入れることは必要なことであり、「人材争奪戦」といった意味合いも出てきます。
異文化について学ぶ機会を外国籍の子どもが与えてくれるという考え方もできます。日本の子どもにとっても視野を広げる良い経験になるでしょう。今、企業は英語を日常的に使える「グローバル人材」を求めています。日本語をきちんと学んだ外国籍の子どもが成長すればグローバル人材にもなり得るのです。(報道センター 袖山香織)