捜査事項照会 私生活筒抜けの恐れ - 信濃毎日新聞(2019年1月6日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190106/KP190104ETI090012000.php
http://archive.today/2019.01.07-004726/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190106/KP190104ETI090012000.php

電車やバスでいつどこへ行ったか、コンビニで何を買ったか…。個人の生活に関わる幅広い情報が知らぬ間に捜査機関に筒抜けになっている恐れがある。
検察当局が、顧客らの情報を入手できる企業や機関の一覧表を作り、内部で共有していることが分かった。交通各社、家電量販店、クレジットカード会社などを含め対象は300団体近い。
情報の大半は、裁判所の令状が要らない「捜査関係事項照会」で取得できると明記している。刑事訴訟法に基づき、捜査に必要な情報の提供を求めるものだ。
当局がいつどんな情報を入手し、どう取り扱っているかを知るすべはない。情報提供があったこと自体、本人に通知されない。
照会はそもそも、捜査当局の要請にすぎない。応じるかどうかは任意である。企業は本来、本人の同意を得ずに個人情報を提供できない。にもかかわらず、提供することが義務のようになっているという。警察や検察ににらまれるのを避けようと、安易に応じている実態もあるようだ。
情報技術が進み、あらゆる面で個人の行動がデータ化され、蓄積されるようになった。各団体が持つ情報を関連づければ、私生活が丸裸になりかねない。思想・信条をうかがい知ることもできる。
捜査のために情報を集めることは必要でも、第三者の目が及ばない現状は権限の乱用につながる恐れが大きい。とりわけ心配なのは、事件と無関係な情報収集に使われることだ。照会は具体的な理由を示さずにできるため、目をつけた人物や組織を探る目的で使われても確かめようがない。
実際これまでにも、警察が国内に住むイスラム教徒を広範に監視し、交友関係などを調べていたことが分かっている。岐阜県では、風力発電施設の建設に反対する住民らの情報を集めていた。
プライバシーは個人の尊厳と自由を守るために欠かせない権利である。憲法は、令状に基づかない家宅捜索や押収を禁じている。
令状主義の原則を逸脱する不透明なやり方で、私的領域の侵害が広がりつつある状況をこのままにできない。人権保障の根幹が掘り崩され、民主主義をやせ細らせることにもなる。
まず何より、企業が顧客や利用者のプライバシーを重んじた対応をすることが重要だ。捜査当局の要請であろうと、個人情報の取り扱いは慎重でなければならない。社会が厳しい目を向け、現状を改めていく一歩にしたい。