(筆洗)どうして戦争をしてはいけないのか - 東京新聞(2018年11月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018110402000184.html
https://megalodon.jp/2018-1104-1009-12/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018110402000184.html

どうして戦争をしてはいけないのか。いろんな答えがあるだろう。人の道に反するから、命の重さゆえ、理由以前に…。ひとつ、とても簡単な回答法がある。パリ不戦条約以来、戦争は違法になったというものだ。
不戦条約は一九二八年、日本を含む大国が調印した。今年は九十周年の節目の年にあたる。ただ、忘れられた条約という呼び名もある。戦争違法化という画期的な内容に比べ、この条約のありがたみは薄いようにも思える。
条約は自衛権を認めていて、解釈の余地も残された。調印の十一年後に第二次大戦が始まっている。違法化といいながら、大戦を防げなかった。薄い印象の一因だろう。
最近、その見方を揺さぶる論考が登場した。米国の法学者二人による『逆転の大戦争史』(文芸春秋)によれば、条約を機に、経済封鎖などによる制裁が機能する、新しい世界秩序の時代になる。
戦争が合法だった条約以前、十カ月に一度もあった領土の征服は、大戦後に、千年に一、二度にまで減った。中東の内戦などで、戦火は絶えないという実感はあろうが、侵略は激減しているのだと研究成果は語る。
不戦条約の内容に似ているのが、日本国憲法の九条一項である。戦争をしてはいけないという新しい世界秩序の明確な表れだ。大国の一国主義が世界秩序を脅かしそうにみえるなか、重みを考える節目の年かもしれない。