(翁長前知事県民葬)新基地建設反対を継承 - 沖縄タイムス(2018年10月10日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/327638
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膵臓(すいぞう)がんのため67歳で急逝した翁長雄志前知事の県民葬が、那覇市の県立武道館で執り行われた。
県内外から多くの人が参列し、辺野古新基地建設を巡り、沖縄の自治と民主主義を守るため、命を削るように政府と対(たい)峙(じ)した翁長氏の功績をしのんだ。改めて哀悼の意を表したい。
県民葬は屋良朝苗氏、西銘順治氏、大田昌秀氏の歴代知事に次いで4人目である。
屋良氏ら3氏が知事退任後に死去したのに対し、翁長氏は在任中の急逝による県民葬である。何よりも大きく違うのは、4年近くの在任中のほぼ全てを選挙で示された「民意」を背に、政府と対峙し続けたことだ。
翁長氏は亡くなる直前、辺野古埋め立て承認の「撤回」を表明し、政治家の公約の重さを身をもって示した。
病魔に侵され、死期が迫っているのを感じながら、最後の気力を振り絞って撤回の手続きに入るよう指示したのである。
会場には、子ども連れの若い母親の姿も目立った。「翁長さんを記憶にとどめてほしい」と孫を連れてきたお年寄りもいた。
会場に入りきれない人のために場外に大型モニターが設置され、多くの人が見入った。急逝からまだ2カ月しかたっていない時期の県民葬である。穏やかにほほ笑む遺影を見て会場のあちらこちらで涙ぐむ人たちがいた。
公約を破ったり、うそをついたりする政治家が増え、政治不信がまん延する中にあって、有権者と翁長氏が固くつながっていたことを改めて示した。

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厳かに進行する県民葬の静寂さが破られたのは、沖縄基地負担軽減担当相を兼務する菅義偉官房長官が追悼の辞を述べた時である。
菅氏は「沖縄県に大きな負担を担っていただいているこの現状は到底是認できるものではない」「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意」などと語った。
参列者から「うそつき」「いつまで基地負担を押し付けるんだ」などの怒りの声が飛び交った。会場は一時騒然とした。
県民葬で浮かび上がったのは県と政府の溝の深さである。菅氏が本気で沖縄の過重負担を「到底是認できるものではない」と思っているのなら、撤回を無効にする法的対抗措置をやめるべきである。
県の撤回を受け入れ、玉城デニー知事が求めている対話に応じるべきだ。

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翁長氏の遺志は新基地に明確に反対して知事選で大勝した玉城知事に引き継がれた。
玉城知事は式辞で、「あらゆる手法を駆使して新基地建設の阻止に取り組み、国と対峙しながらも沖縄の民意を強く訴え続け、多くの県民の共感を得た」と翁長氏の功績をたたえた。
翁長氏が繰り返し訴えた「イデオロギーよりアイデンティティー」である。基地を挟んで経済か平和か、と二者択一を迫られる現状に終止符を打つために、私たちも深く胸に刻みたい。