ノーベル平和賞 世界は性暴力の根絶へ - 東京新聞(2018年10月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018100602000184.html
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性暴力を根絶する強い意志をきっぱりと示したノーベル平和賞だった。人間の所業とは思えぬ暴力が伝えられる。受賞者二人の勇気にならって実態を直視し、根絶のためにできることを考えたい。
「女性の体が戦場になっている」。コンゴ(旧ザイール)で性暴力被害者の治療を続け受賞が決まった医師デニ・ムクウェゲさん(63)は二年前、来日して訴えた。
コンゴでは部族対立や周辺国の介入で紛争が拡大。村を襲った武装勢力は女性を次々レイプした。
ムクウェゲさんは病院や相談所をつくり、五万人以上を治療し、精神的なケアをしてきた。
紛争のもととなっているのは金、スズ、タンタルなど豊かな鉱物資源だ。携帯電話やパソコンなどに利用される。私たちの便利な生活につながっていることを忘れてはならない。紛争地の鉱物は使わないよう徹底したい。
もう一人の受賞者ナディア・ムラドさん(25)は、過激派組織「イスラム国」(IS)に性奴隷として捕らわれていた。ISが目の敵にしたイラクの少数派ヤジド教徒。兄弟らは殺された。脱出してドイツに逃れ、国連親善大使となり、ISの非道を訴えている。授賞理由は「沈黙を強いる慣習を拒否し、被害者代表として語った」と勇気をたたえた。
戦時の性暴力はこれまでも各地の紛争で続いてきた。一九九〇年代のボスニア・ヘルツェゴビナ内戦では「民族浄化」を名目にした集団レイプが起きた。ミャンマーイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害でもミャンマー国軍が主導したレイプが報告されている。
共通しているのは、女性にとって「魂の殺人」であるレイプが敵制圧の一つの手段とされていることだ。住民に恐怖心を植え付け、抵抗する気力を失わせ奴隷状態にすることも狙いという。
二人の受賞決定は、被害者の尊厳を奪い、加害の側の人間性も奪う、戦争の非人道性をあらためて突きつけている。
紛争地だからといって、人間の尊厳がおろそかにされていいわけはない。二人の訴えに真剣に耳を傾け、国際社会を挙げ性暴力根絶に取り組みたい。
今回、性暴力根絶に光が当てられた背景には、性被害を告発する「#MeToo」(「私も」の意)運動の世界的なうねりがある。沈黙を破った女性たちの勇気が、社会を変え、平和につながることをあらためて願う。