(政界地獄耳)挙党体制作れぬけじめのなさ - 日刊スポーツ(2018年9月21日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201809210000149.html
http://archive.today/2018.09.21-010326/https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201809210000149.html

★首相・安倍晋三の総裁選3選が決まった。予測通りに圧勝の結果になったが、複雑な党内事情をのぞかせ、安倍内閣の終わりの始まりも予感させた。安倍陣営は首相の再選は固いと踏んだものの、首相の弱点は、討論で即座に答えるべきテーマで高揚してしまい、興奮するとあらぬことを口走ることと知っていて、極力、討論やテレビ出演を避けてきた。

★安倍陣営にとって最大の誤算は、メディアが首相の今後の政策よりも、首相の森友・加計学園疑惑についての政治姿勢の問題点に焦点を当てて、質問攻めにしたことだ。その討論でのやりとりが後のテレビ出演での首相の狼狽(ろうばい)につながり、言い訳に始終したように映ったのは、マイナスだったろう。また日ロ首脳会談や、その後のプーチン大統領からの「無条件平和条約の締結」という提案も、プーチンとの個人的関係や蜜月を売り物にして外交の安倍をうたっていただけに、失望感が増したのではないか。

★これらが元幹事長・石破茂の善戦を誘発したといえる。またこの闘いが、今までの自民党総裁選と大きく異なるのは、「挙党体制」という言葉が消えたことだ。「干してやる」とか「どう喝」などの言葉が飛び交った。挙党体制には、「考え方が違っても、自民党はまとまらないと意味がない」という意味が含まれているが、勝ち組と負け組を分けたがる文化が、挙党体制を凌駕(りょうが)したといえる。

★選挙中の乱暴な出来事は「枚挙にいとまがない」(石破陣営)。言いたいことは沢山ありそうだが、気になるのは「テレビ出演などでは、総理秘書官5人がぞろぞろと付いて歩いて来たことだ。まさに総裁選は党務。首相秘書官の1人が連絡係として付いてくるのは良いとしても、官邸挙げて秘書官が付いてくるのは、公務と党務の区別がついていない証拠だ。メディアから公正さを要請されてもけじめがないのは、安倍陣営ではなく、官邸そのものではなかったのか」(自民党中堅議員)。こういった指摘も「問題にしない」と党幹部たちが言って、終わらせようとするだろうが、少なくとも森友・加計学園疑惑は、首相夫人の関与が取りざたされ、その連絡係に夫人の秘書役の公務員が利用されたと指摘された。わざわざ閣議決定までして、「昭恵夫人は私人」とした意味がない。そのけじめのなさが、挙党体制を阻んでいるとすれば、党と官邸の私物化で首相は、森友・加計問題をいまだ理解していないことになる。

★挙党体制が作れぬ内閣は、党内からの批判を受けながらスタートするだろう。総裁選の投票では、安倍支持の議員が最後に石破に駆け込んだのではないかと言われている中、来月早々に行われる党人事と内閣改造で、2つ目の安倍内閣の終わりの始まりが、はっきりと見え始めるのではないか。首相にとっては多難な3選となった。(K)※敬称略