障害者雇用 「なめられた」 国の不正に怒りやあきれ声 - 毎日新聞(2018年8月17日)

https://mainichi.jp/articles/20180818/k00/00m/040/114000c
http://archive.today/2018.08.17-145707/https://mainichi.jp/articles/20180818/k00/00m/040/114000c

誰もが平等に社会に参加できる「共生社会」の実現を理念として、国が率先して進めたはずの障害者雇用制度。肝心の中央省庁が目標を下回っていたのに数字を水増ししていた疑惑が浮上した。不正は常態化していた可能性もあり、障害者雇用に取り組む企業や障害者団体からは怒りやあきれる声が相次いでいる。【金秀蓮、原田啓之】
「監督する立場の省庁が不正をするなんて、残念で仕方がない」。大手メーカーの人事採用担当者はこう憤る。障害者雇用促進法は、企業や国・自治体など事業主に対し、一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇うよう義務付ける。厚生労働省は各省庁や民間企業に毎年6月1日時点の雇用数の報告を求める。過去1年のうち雇用率が達成できない月があった企業からは、1人分につき原則月5万円の納付金を徴収する一方、達成企業には補助金を支給する。
このメーカーは「障害者の雇用にはダイバーシティーの観点もあり、企業の成長にもつながる」と、障害者の職域を広げたり、社員教育を続けてきた。それでも法定雇用率に達しない月があり、納付金を納めている。担当者は「省庁が正確な数字を出していないなんて信じられない。事実が明らかになった以上、きちんと雇用してほしい」と話す。
障害者の就労支援事業などを展開するLITALICO(本社・東京都)は自社でも積極的に障害者を雇用し、法定雇用率を上回る。担当者は「多様な働き方を推進しようと、企業の意識も変化している。障害者には難しい業務だという先入観を持たず、支援機関や当事者の声を聞きながら考えてほしい」と強調した。
障害者団体からも怒りの声が上がる。NPO法人日本障害者センターの家平悟事務局長は「雇用政策を進める国が不正に手を染めていたのは深刻だ。働きたいのに雇ってもらえない障害者はたくさんいる。国は本気で障害者を雇う気がなかったのではないか」と指摘した。
精神障害者を支援しているNPO法人「地域精神保健福祉機構」共同代表の宇田川健さんは「旗振り役の国に『なめられた』との思いだ。障害者は役に立たないという誤った印象を持っているのではないかと疑ってしまう」と話した。
法定雇用率は今年4月、民間企業は2.0%から2.2%へ、国や自治体は2.3%から2.5%へと引き上げられた。厚労省によると、昨年6月1日現在の民間企業の達成率は50%。国の33行政機関で未達成は個人情報保護委員会のみで、達成率は97%とされていた。行政機関には納付金や補助金の仕組みはない。

国や地方公共団体への「性善説」が問題
障害者雇用に詳しい阿部正浩・中央大学経済学部教授の話 中央省庁は率先して障害者を雇用しなければならない立場にあるはずだ。雇用する障害者の水増しが常態化していたのなら、民間企業を指導する際の説得力がなくなってしまう。障害者雇用促進法は、法定雇用率を達成していない民間企業に納付金を納めることを義務付けているが、国や地方公共団体にはそれがない。当然達成しているという大前提の「性善説」に立っていることに問題がある。これを機に、第三者機関に監督させるなど指導の在り方を改める必要があるのではないか。