https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-766681.html
http://archive.today/2018.07.23-004121/https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-766681.html
大人たちは幼い命を救えなかった。あの悲劇を二度と繰り返してはならない。
東京都目黒区で5歳の女児が両親からの虐待を受けて死亡した痛ましい事件を受けて、政府が児童虐待防止の緊急対策を決定した。
一番の柱は、子どもや保護者の相談や支援に当たる児童福祉司を2022年度までに約2千人増やすことだ。
専門職が不足している児童相談所の機能強化になるため、ひとまず評価したい。しかし今後は、数だけではなく、複雑な事案に対応できる職員の養成、資質向上にも力を入れていくべきだ。
児童福祉司は17年現在、全国の児童相談所に3253人が配置されている。今回の対策は過去最大の増員幅で、1・6倍の5200人になる見込みだ。
児童虐待の通告件数は年々増えている。市民の意識の高まりや、警察、病院、学校と児相との連携が進んだことも背景にある。
児相が対応した16年度の児童虐待の件数は12万件超。1999年の10倍以上に激増したが、児童福祉司の人数は2・6倍にとどまっている。
マンパワーが圧倒的に足りず、個々の児童福祉司の過重な業務負担が長年の課題になっていた。人員増は一筋の光明だが、これで根本的解決につながるわけではない。
児童福祉司が多様な事例に的確に判断できるようになるまでには5年以上の経験が必要といわれる。児童福祉司は近年になって増員を進めたため、児相の現場では経験を積んだ専門職の割合がまだ少ないとの指摘もある。
専門性の高い人材を養成するのは一朝一夕では難しい。市町村との連携も重要になってくる。
16年の児童福祉法改正で、妊娠期から子育て期までの切れ目ない支援をする「子育て世代包括支援センター」の設置が市町村に義務付けられた。乳幼児健診や保健指導などの母子保健事業を通して、虐待リスクを早期発見、予防することも期待されている。
包括支援センターと児相が密に連携した上で役割を分担し、児相の負担を減らす方策が必要だ。児相は、より深刻な事案に対処して力を発揮できるようにしてほしい。
目黒区の事件では、香川県と東京都の児相間の引き継ぎに問題もあった。重大事案との認識が伝わっていなかった。今回の対策では、緊急性が高い事案の場合は双方の児相職員が対面で引き継ぐことを原則にした。当然の措置であり、遅過ぎるくらいだ。
さらに、通告から48時間以内に子どもと面会できない場合は警察と情報共有を進め、児相が立ち入り調査をすることもルール化した。実効性ある方法を望みたい。
尊い命を失ってから対策に乗りだすという事態は、もう終わりにしたい。子どもたちを守り、育てるのは、社会全体の大きな責任である。