週のはじめに考える 国会の耐えられない軽さ - 東京新聞(2018年7月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018072202000162.html
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きょう閉会する通常国会。私たち有権者の思いは届いていたのでしょうか。政府の言いなりでは国権の最高機関としての役割を果たしたとは言えません。
荒涼たる言論風景に、暗澹(あんたん)たる思いを禁じ得ません。百八十二日間の会期を終えた通常国会です。
安倍晋三首相が成立を優先した働き方関連法に限らず、政府の身勝手や暴走を止められず、立法、行政監視機能を十分に発揮できなかった国会でもありました。立法府の危機と言ってもいい。

◆著しい立法機能低下
まずは立法機能の低下です。
国会の第一の役割は法律をつくることです。内閣には予算案や法案の提出権が認められてはいますが、国会で可決されなければ効力がありません。憲法は国会を「国の唯一の立法機関」と定めます。
同時に日本は、国会議員から行政府の長である首相を選ぶ議院内閣制です。衆院で第一党の党首が首相を務めるのが慣例です。
つまり、首相は与党内では「上司」に当たり、「部下」である党所属議員は従わざるを得ない構造上の問題が生じます。通常国会ではこの弊害が顕著になりました。例えば、首相が最重要法案と位置付けた働き方関連法です。
年収の高い専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」創設がなぜ必要なのか、政府は説得力のある説明に努めたとは言えません。制度の必要性把握のために厚生労働省が行った専門職からの聴取のずさんさも明らかになりました。
本来なら、成立しないはずの法律ですが、与党は野党の反対を押し切って成立させたのです。
共同通信社が五月に行った世論調査では、働き方関連法を通常国会で成立させる「必要はない」との答えは68・4%に達する一方、「成立させるべきだ」は20・3%でした。これはあくまで世論調査ですが、与党議員は政府と国民のどちらを向いていたのでしょう。

◆行政監視も果たせず
カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法も同様です。
刑法が禁じる賭博を一部合法化する危険性やギャンブル依存症患者が増える恐れが指摘され、報道各社の世論調査でも成立させる必要はないとの答えが多数でしたが政権側は成立を強行しました。
国民の生命や暮らしを守るために必要な法律なら、反対があっても国民への説得努力を重ねた上で成立させる必要があることは認めますが、新たな法律の必要性を示す「立法事実」がないにもかかわらず、政府提出法案を唯々諾々と追認するだけで、本当に国民のために働いたと言えるでしょうか。
国会のもう一つの重要な役割は行政監視です。政府がきちんと仕事をしているか、不正や無駄はないかを国政調査権を使って調べる仕事ですが、国会がその役割を十分果たしているとは言えません。
例えば、森友、加計両学園をめぐる問題です。公平・公正であるべき行政判断が、首相の直接、間接の影響力で歪(ゆが)められたか否かが問われています。許認可や税金の使い道にも関わります。
森友問題では財務省による公文書改ざんが明らかになり、佐川宣寿前国税庁長官による国会での偽証の疑いも指摘されています。
加計問題では首相と加計孝太郎理事長との面会や「獣医学部新設は総理案件になっている」との首相秘書官の発言を愛媛県文書が記す一方、学園側は県側に虚偽説明をしたとしています。
国会には事実を解明する責任があるはずですが、特に与党側は、首相や官邸に遠慮しているのか、解明に消極的です。行政監視の責任を放棄して、行政府への配慮を優先させるとは何ごとか。立法府が行政府に従っては、三権分立の原則にも反する主権者たる国民への背信行為です。国会にそうした問題意識はないのでしょうか。
首相官邸への権力集中は平成の政治改革が目指したことですが、衆院への小選挙区制の導入や政党助成制度で、選挙での公認や政治資金の配分などの政治権力が首相周辺に過度に集まりました。与党議員が首相官邸にものが言えなくなった結果、国会の立法機能や行政監視機能が低下したのです。

立法府再生に着手を
「存在の耐えられない軽さ」という小説があります。チェコ出身の作家ミラン・クンデラの作品です。一九六〇年代後半の「プラハの春」とその後の弾圧の時代を背景に、男女三人の錯綜(さくそう)する人間関係を描き、映画化もされました。
国会の現状を見ると、ついこの題名が浮かんでしまいます。最高機関とは名ばかりで、国会の存在も軽くなってしまった、と。
しかし、そうした状況が続いていいはずはない。国会がいったん幕を閉じても、立法府再生に向けた議論に直ちに着手すべきです。与野党双方に奮起を促します。