(書評)最終獄中通信 大道寺将司 著 - 東京新聞(2018年7月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018070102000192.html
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◆自責と人々の憤怒を句に
[評者]福島泰樹歌人
著者大道寺将司は、三菱重工爆破事件(一九七四年八月)を起こした「東アジア反日武装戦線<狼(おおかみ)>」の実行犯として逮捕され、一九八七年三月、死刑が確定された。
以後は家族、弁護人を除く一切の交流が遮断され、死刑執行のためにのみ生かされ拘禁される。氏の声を獄外に伝え、友人たちの声を獄内に届けるために交流誌「キタコブシ」の発信が開始されたのは、一九八七年五月。以後、母(死後は、妹)に宛てた私信は、著者が多発性骨髄腫のため東京拘置所で死去する二〇一七年五月まで、三十年にわたり発信し続けられる。
本書には、先に刊行された『死刑確定中』以後二十年の内省が、深い歴史的視野をもって、書き誌(しる)されている。その行間に滲(にじ)み出るものは、政治犯大道寺将司の息苦しいほどの誠実である。自ら殺(あや)めてしまった人々への、償いきれない思いは、俳句となって言葉を得た。

<棺一基四顧茫々(かんいつきしこぼうぼう)と霞(かす)みけり>。窓のない独房もまた「棺一基」、自らの寝姿にほかならない。この壮絶な自己断罪、昼夜に襲い来る脈動の責め苦が、この絶唱を生むに至ったのである。 

<蒼氓(そうぼう)の枯れて国家の屹立(きつりつ)す>。人民が批判力を喪(うしな)うと国家が力を増す。いまの国会を見よ。<胸底は海のとどろやあらえみし>。東北地方を襲った大震災詠である。実に、律令制以来千数百年の歴史を俯瞰(ふかん)、一句という思想に収斂(しゅうれん)する力技をやってのけたのである。幾時代幾億の底ごもる人々の憤怒が、言霊となって氏の体を貫く。
そう、実人生のすべてといってよい四十二年間を氏は獄中にあって、常に虐げられている人々の側に身を置き、言葉によって世界の非理非道に立ち向かい、言葉を研ぎ続けることによって、死刑囚として戦い続けたのである。
「国家が法に基づいて人を殺すことは、国家の構成員たる一人ひとりが死刑囚の首を少しずつノコギリで引いてゆくことだ」。終わることない戦争や災害に心を痛めつつ、極度に制限された情報の中から、こう言い遺(のこ)した。

河出書房新社・2052円)

1948〜2017年。連続企業爆破事件の死刑囚として東京拘置所で死去。

最終獄中通信

最終獄中通信

◆もう1冊
大道寺将司著『棺一基 大道寺将司全句集』(太田出版