子育て支援 無償化ありきでなく - 朝日新聞(2018年6月7日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13529398.html
http://archive.today/2018.06.07-013219/https://www.asahi.com/articles/DA3S13529398.html

手薄だった子育て支援を思い切って拡充することには賛成だ。それだけに、貴重な財源の使い道をよく考えてほしい。
安倍首相が昨秋の衆院選で掲げた幼児教育・保育の無償化の具体策が政府の「骨太の方針」の原案で示された。3〜5歳では認可保育所の利用を無料にしたうえで、認可外の施設を利用する人にも一定の補助をする内容だ。今後、法改正などの準備にとりかかるという。
国の懐に余裕があるならば、無償化は理想だろう。しかし待機児童の解消も進まぬなか、すでに施設を使っている人たちの経済的な負担を軽くすることが最優先の課題だろうか。無償化ありきでなく、政府は政策の優先順位を柔軟に見直すべきだ。
選挙戦の目玉として唐突に打ち出された無償化だけに、具体策には無理が見える。
認可施設の利用者だけを対象にすると、希望しても認可施設に入れない人との間で不公平感が広がる。一方で、施設の面積や保育士の配置が不十分な施設の利用にまで税金を投入することには、批判もある。
新たな方針では、市区町村で保育の必要性があると認められた認可外の利用者に対し、月3万7千円を上限に補助をする。対象施設は認可外に対する国の指導監督基準を満たすことを条件とするが、5年間は経過措置として基準を満たさない施設の利用も補助の対象になる。
だが、この案でも、認可施設との不公平感は解消されない。そもそも認可の利用料は所得に応じて定められている。高所得世帯ほど優遇される、との批判は与党内からも出ている。
これらは待機児童問題を解消しないまま、認可施設の無償化を先行させることにより生じるゆがみだ。今は無償化の対象を必要性の高い人に絞るべきではないか。
待機児童ゼロに向けた新たな保育所の整備計画は、首相が無償化を打ち出す前に作られた。無償化を進めれば利用者はさらに増えることが予想される。
無償化に多くの財源を使ってしまい、新たな受け皿整備に回す予算がなくなっては、本末転倒である。まずは潜在的なニーズも含めてしっかり把握し、計画を見直し、必要な財源を確保することが先だ。
保育所の整備が進まない理由の一つに、深刻な保育士不足もある。人材確保のための賃金の引き上げや、職員の配置の増加といった取り組みにも、財源が必要だ。
無償化以外にも、やるべきことはたくさんある。