セクハラ防止 表面的な対策でなく - 東京新聞(2018年6月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018060702000139.html
https://megalodon.jp/2018-0607-1027-56/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201806/CK2018060702000128.html

福田淳一前財務次官によるセクハラ問題をきっかけに、政府は中央省庁の幹部職員にセクハラ防止研修への参加を義務付けるなど緊急対策をまとめた。表面的な対応で片付けようとしていないか。
中央省庁の幹部職員によるセクハラ問題をめぐっては、四月に辞職した前財務次官に続き、厚生労働省で福田祐典健康局長による女性職員へのセクハラ行為が発覚。外務省でもロシア課長にセクハラ疑惑が浮上するなど相次ぐ。
セクハラ問題への対応が迫られる中での緊急対策は、各省庁の課長級以上の職員を対象にセクハラ研修への参加を義務付けるほか、受講状況を内閣人事局が確認。実質的に昇格の要件とするとしている。
各省庁に通報窓口を整備するほか、省庁からの独立性を保つために、人事院には第三者的な相談窓口の設置を検討するよう求める。
セクハラへの認識の欠けた人が幹部として昇任する組織は許されない。中央省庁が一斉に研修に取り組むことでセクハラの防止や理解促進に効果はある。だがこれらの策は民間企業ならすでに取り組んでいることだ。むしろ中央省庁がこれまで研修などを徹底していなかったことに驚かされる。
前財務次官の問題では民放の女性社員が被害に遭い、対策は、野田聖子女性活躍担当相が女性記者や経営陣らメディア関係者との意見交換を踏まえてまとめた。対象は全職員だとしてもメディア関係者に絞った印象も拭えない。
一連の問題が提起したのは、すべての人がセクハラという人権侵害に脅かされることなく、健全に働き、生活できる環境をどう整えるのかという問いだった。
セクハラ問題が後を絶たないのは現行法に禁止規定がないことも一因だろう。政府は「現行法でセクハラ罪という罪はない」といった答弁書閣議決定したが、法の不備でセクハラがなくならないのであれば、政府内に限らず、すべての人の被害防止や救済を目的とした法整備に踏み込む選択肢もある。野田氏も当初は「罰則付きの法整備」に意欲を示していた。政府内で議論が進まず、結論が先送りになったのは残念だ。
国際労働機関(ILO)がセクハラを全面禁止にする条約制定に動きだそうとしている。条約ができ、日本が批准しないことになれば、国際的な反ハラスメントの動きにも取り残されかねない。セクハラ対策を表面的な取り繕いで済ませてはならない。