鳩山由紀夫手記「安倍総理、ご自身の判断でお辞めになればよろしい」 (鳩山由紀夫) - オピニオンサイトiRONNA(2018年5月30日)


https://ironna.jp/article/9814

鳩山由紀夫(第93代内閣総理大臣
安倍総理が退陣すべきか否かを論じてほしいとの依頼が来た。もとより私はかつて米軍普天間飛行場の移設問題
において、「最低でも県外に」という沖縄のみなさんの期待に応えられずに、支持率が急降下して総理を辞めた人間である。
そんな私が他人の総理退陣の是否を論ずる資格などあるかとのご批判をいただくことは必須と思われるが、iRONNAからの執筆依頼に応えたのであって、その種のご批判はご遠慮申し上げたい。
まず結論から申し上げれば、安倍総理はご自身のご判断で総理をお辞めになったらよろしいと思う。
なぜ「ご自身の判断で」と申したかと言えば、それは言うまでもなく、学校法人「森友学園」(大阪市)の国有地売却問題に関わって、安倍総理ご自身が「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということは、はっきりと申し上げておきたい」と開き直って答弁していたからである。
安倍総理森友学園問題に関係するということは、必ずしも国有地を森友学園のために安く売ってやれと財務省に働きかけたか否かとか、文書の改ざんを指揮したか否かということを問うているのではない。単純に言えば、森友学園の籠池理事長夫妻と安倍総理夫妻(のいずれか)にはそれなりのお付き合いがあったか否かということである。
そのことに関しては、総理自身はともかく、昭恵夫人が総理に代わって森友学園を訪問した際に、学園の教育方針に感涙したとの報道があった。さらに昭恵夫人フェイスブックにも、籠池夫妻との写真付きで、日本人の誇りや日本の教育について意見交換させていただきましたと書かれている。昭恵夫人森友学園が開校予定の小学校の名誉校長を務めることになっていたことからも、関わりは明らかである。
それだからこそ、官邸に人事権を握られた官僚たちが、特に財務官僚たちが必死になって「アベ友」の森友学園に国有地を事実上タダ同然に払い下げしようとし、そのために事実を曲げ、隠蔽(いんぺい)し、揚げ句の果ては改ざんまでして安倍総理を守ろうとしたのである。
公務員が法律まで破り改ざんを行ったのは、時間的にみても、決して佐川宣寿理財局長(当時)の答弁に合わせるために行ったのではないだろう。安倍総理の「関係していたら総理も議員も辞める」との発言があったため、関係していたと見られる恐れがある箇所を改ざんせざるを得なかったのである。
そして、その過程において、自殺者まで生んでしまった。自殺した財務省近畿財務局の男性職員は、財務省上層部の指示で文書の改ざんに関与したことを示唆する内容のメモを残していた。安倍総理の意向を忖度(そんたく)した財務省幹部の指示で文書の改ざんに関与した職員が自殺したのである。
最低限明らかなことは、もし安倍総理夫妻が森友学園の籠池夫妻と知り合いでなかったのならば、森友学園へのタダ同然での国有地売却は起こっておらず、したがって改ざんなどもなされることはなく、職員の自殺は起きなかったということである。
安倍総理がいなければ職員の自殺はなかったのである。もし私が総理であったならば、とてもいたたまれない。総理を続けることなどできない。自分が一人の人間を殺してしまったのだから。この事実の重さを安倍総理はどのように感じているのだろうか。
問題は森友学園にとどまらない。学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設は、加計孝太郎理事長と安倍総理の親密な関係によって無理が通ったのであるが、そのことを隠すために安倍総理獣医学部新設についてはギリギリまで知らなかったと答弁している。
しかし、はるかそれ以前に愛媛県職員らが官邸で柳瀬唯夫総理秘書官(当時)と面談した際に、柳瀬秘書官が「獣医学部新設は総理案件」と述べていたことが明らかとなった。安倍総理は虚偽の答弁をしたことになる。決して許されることではない。
さらには防衛省による自衛隊南スーダンイラク派遣時における日報の隠蔽(いんぺい)問題、福田財務事務次官のセクハラ辞任問題など官僚の不祥事が絶えない。長期政権は必ず腐敗するのはまさに真理である。
政権交代はしばしば、かような内政のスキャンダルによる国民の怒りがもたらすものだが、私が最も不満に思うのは、安倍総理の「対米追随」の外交姿勢である。
日本総合研究所会長の寺島実郎氏が指摘するように、安倍外交は周辺の中国、韓国、北朝鮮、ロシアなどとうまく行っていない。今年に入り、ようやくわずかばかり改善の兆しを見せているが、それまで不毛な「中国脅威論」
を振りかざして、アメリカに倣いアジアインフラ投資銀行にいまだに参加していない。
韓国とも米国の指示の下に慰安婦問題の解決を図ったが、いまだに韓国民の理解を得られていない。ロシアについても、クリミア問題の歴史と現実を直視せず、経済制裁に加わる愚を犯して北方領土問題の解決を遠のかせた。
北朝鮮問題に関しては、対話の時代は終わったと繰り返して、世界の対話の波に乗り遅れた。そしてトランプ大統領でさえ、安倍総理に笑顔を振りまきながら、日本に必要性を感じない高価な武器を売りつけ、日本によって貿易赤字が拡大したと鉄鋼などに高い関税を設けた。
アメリカに諂(へつら)っても、日本はアメリカの尊敬の対象になり得ていないのだ。日本の外交姿勢を根本的に見直して、日本を真に独立させねばならない。
確かに自民党の支持率は安定しているが、それは自民党に代わる野党が存在していないからであり、ある意味で日本にとって最も不幸なことは、安倍政権が内政、外交ともに大きく国益を損なってきたにもかかわらず、国民の信頼に足る野党がいないことである。
民主党民進党となり、分裂をしたことで大きく信頼を失った。しかし、だからと言って数合わせの合流はさらに信頼を失うことになりかねない。今、野党がやるべきは拙速を避け、安倍政権、いや自民党政権に代わって、日本の未来の姿を指し示すことである。
日本の国体は断じてアメリカであってはならない。天皇制の下に国民が国体となる日本を描き切ることだ。安倍政権の数代後に、そのような日本が誕生することを切に願う。